【まちの宝】父の日や大切な人へのプレセントにもおすすめ!藍と愛を込めて、こだわりが詰まった長く使える一着を。久留米織の工房『ロォーリング』が紡ぐ、土から始まるものづくり(福岡・大刀洗町)【まち歩き】
筑後川へ向かう道を進むと、田畑の向こうに空が広がる。工房の裏手には藍草の畑があり、その先にはホタルの生息地が残っている。
ここは、福岡県大刀洗町。久留米絣の技をもとに、服や雑貨を手がける工房、『ロォーリング』である。
代表の實藤俊彦さんは、商品を見せる前に、まず土地の話から始めた。
「ここは昔、港やったったいね」。
筑後川沿いのこの一帯は、かつて船が人や物が行き交う場所だった。藍の産地であり、集落には暮らしの熱があった。さらに遡れば、南北朝の時代の合戦や城跡の記憶も残る土地だという。
その長い歴史の上に、今の工房がある。
■川のそばで始まった、家業の先
實藤さんの家は、もともと縫製に関わる仕事をしていた。父は作業服を扱い、母方は藍を生産していた。近所の人たちが着ていたもんぺや、祖母たちの暮らしの中にあった布。その記憶は、實藤さんのものづくりの奥に静かに刻まれている。
ロォーリングを立ち上げたのは平成7年。もともとは下請け縫製業として、多くの注文を受けていた。
「当時は、下請け加工業者が一番儲かったの」。
けれど30年ほど前から、海外生産の低価格化が進み、縫製の仕事は次々と外へ流れていった。
「うちが300円で作りよったエプロンが、向こうは30円で出来よった」。
下請けの仕事だけでは続かない。日本で作る意味を、もう一度考え直さなければならなかった。
その時、實藤さんが目を向けたのは、遠くの流行ではなく、足元の土地だった。川がもたらす湿り気のある土と、豊かな水。乾いた土地では育ちにくい藍にとって、この場所は適した環境だった。
祖母や近所の人たちが身につけていたもんぺ。暮らしの中にあった綿の布に柄をつけ、技術として磨かれてきた久留米絣。實藤さんは、その土地の記憶と家業の縫製を、もう一度つなぎ直そうとした。
「昔の人がマニファクチャーでしよったことなら、自分もできるんじゃないかなとね」。
土地に残る素材と、家業として続いてきた縫製の技術。その二つをつなぎ直すことが、ロォーリングの出発点になった。
■一本の糸から、布の表情をつくる
工房に並ぶシャツやマフラー、帽子、マスク、ブックカバー。どれも久留米絣の技術を背景にしながら、現代の暮らしに合わせて形を変えている。
中心にあるのが、独自開発の「からくり®織」だ。久留米絣の糸づくりをもとに、複数の糸を組み合わせることで、色の奥行きや空気を含むような風合いを生む。
實藤さんは、糸を手に取りながら説明する。
「この一本の糸に、もう一本足して撚ったら、こういう点線になるでしょう」。
2003年には、その技術で特許も取った。綿100%でありながら、肌に張りつきにくく、ふんわりとした温かさが出る。マフラーは中に空気をためる構造になっていて、色の出し方も巻き方によって変わる。
「見た目は美しく。長く使える。装着感がいい。この三つです」。
その言葉は、工房の商品すべてに通じている。縫い目をどこに置くか。柄をどう合わせるか。生地のゆがみに沿って、どこにハサミを入れるか。
生地は方眼紙のようにまっすぐではない。縦横の目を見ながら、一枚ずつ裁つ。大量に重ねて一気に切ることはしない。
「ハサミ入れる時は、リズムに乗らんといかん」。
手の感覚でしか拾えない線がある。その積み重ねが、長く着られる一着を支えている。
■途切れたものを、もう一度土から
工房の裏には、藍草の畑がある。實藤さんは、この藍を「三川藍®」として育てている。無農薬、無肥料。種も買わず、自分の畑でつないできた。
「藍を育て始めて20年ぐらいなるけど、種から全部」。
収穫した藍は乾燥させ、時間をかけて発酵させる。染料のもとになる「すくも」ができるまでに約一年。さらに木灰の灰汁で還元させ、ようやく布を染める準備が整う。
師匠がそばにいたわけではない。文献を読み、人に聞き、失敗を重ねた。藍と灰だけで染める方法を自分の手で確かめるまでに、7、8年かかったという。
「昔の人って、すごくない?」。
服を長く着る。薄くなれば染め直す。役目を終えたら土に還す。その土でまた藍や綿が育ち、次の布になる。
ロォーリングのものづくりは、売って終わりではなく、土へ戻るところまでを見ている。
■藍に溢れ、愛が溢れる場所へ
實藤さんが見ているのは、工房の未来だけではない。
この地域には、かつて子どもが多くいた。集落には店があり、行事があり、人の気配があった。けれど今、小学生はほとんどいないという。家は少しずつ空き、道も暮らしも静かになっていく。
「未来がなかなかみんな見えてこないのよ」。
その言葉には、あきらめよりも、手探りの力が滲む。
だから實藤さんは、工房の裏に藍の畑をひらいている。さらにその先には、ホタルの生息地が残る。水があり、土があり、かつて藍が育っていた土地の記憶がある。
實藤さんは、この一帯をいつか「アイランドパーク」にしたいと話す。
「藍に溢れ、愛が溢れる場所にしたい」。
少し照れ隠しのようなダジャレを交えながらも、その言葉には長い時間をかけて描いてきた構想がある。
藍を育てる。染める。服にする。長く着る。薄くなれば染め直す。最後は土に還す。その土でまた藍や綿が育つ。ものづくりの循環を、工房の中だけで終わらせず、土地の風景として見せていく。
同時に、そこには人の流れをもう一度生む願いもある。染めを体験する人が来る。子どもたちが遊ぶ。地域の人が集まり、綿菓子や焼き鳥を焼く。そんな小さなにぎわいを、實藤さんは思い描いている。
「一回でも多く笑っとった方がいい」。
藍に溢れ、愛が溢れるアイランドパーク。言葉だけ聞けば、少し可笑しい。けれどその奥には、途切れかけた産業と、静かになっていく集落を、もう一度人の手で温め直そうとする願いがある。
■これからの30年へ
ロォーリングは、立ち上げから30年を越えた。實藤さんは今を「前半30年が終わった」と言う。
「あと後半30年のために、今、再起動しよるところ」。
その言葉のそばには、染めたばかりの布が干されていた。淡い藍色のものもあれば、これからさらに染め重ねられるものもある。仕上がりはまだ途中だ。色も、形も、地域の未来も、すぐに答えが出るものではない。
けれど、畑には藍が育っている。工房では機械が動き、手は今日も糸の目を探している。
この場所では、途切れかけたものが、土と水と人の手を通って、もう一度ゆっくり息を吹き返している。
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◼️『ロォーリング』
住所:福岡県三井郡大刀洗町三川550-3
電話:0942-77-3297
営業時間:9:00〜17:00
定休日:年末年始(12月31日〜1月3日)、お盆(8月13日〜15日)
駐車場:あり(10台)
HP:https://www.kasuri.jp/
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※情報は2026年6月2日時点のものです。最新情報は公式HP、Instagram等でご確認ください。
■ ロォーリング
住所:福岡県三井郡大刀洗町三川550-3
『ロォーリング』HP
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