JR遠賀川駅を出て、ロータリーの向こうへ目を向けると、駅前のにぎわいの中に紛れるように、たいやきカフェ『あまねや』はある。
扉を開けると、木の家具や古いミシン、壁に飾られた小物たちが迎えてくれる。新しい店なのに、どこか昔からここにあったような空気が流れている。
焼きたてのたいやきを待つ人、ランチを楽しむ人、ふらりと立ち寄って本を読む人。駅前の小さなカフェには、いろいろな時間が重なっている。
◼️遠賀に戻り、駅前で始めた小さな場所
店を営むのは、遠賀町出身の東郷正江さん。地元を離れ、東京などで過ごした時期もあったが、いつか自分の手で、人が集まり、何かが生まれる場所をつくりたいという思いがあった。
その思いを抱えて遠賀へ戻った東郷さんが出会ったのが、駅前にあるこの場所だった。誰かがふらりと立ち寄り、食べたり、話したり、出会ったりする。そんな日常の入口として、カフェという形が少しずつ見えてきた。
◼️駅舎の記憶から生まれた、たい焼き
あまねやのたいやきには、遠賀町の人たちの記憶が重なっている。
現在の遠賀川駅は新しく整備されているが、以前は木造の小さな駅舎だった。その駅舎は火災で全焼してしまったが、そこにはかつて、たいやき屋があったという。
東郷さんが駅前で何かを始めようとしたとき、周りの人たちの口から自然と出てきたのが、そのたい焼き屋の話だった。
「あそこ、たいやき屋さんあったよね」。
その言葉が、あまねやの始まりを少しずつ決めていった。町の人たちの中に残っていた味の記憶に導かれるように、たいやきが看板になった。
店名の『あまねや』は、「たいやき」の鯛という漢字に含まれる「周」の字に由来する。「周」には、あまねく、広く行き渡るという意味がある。
「広く、広がっていくみたいな意味があるので」。
たいやきから縁が広がっていくように。そんな願いが、店名にも込められている。
◼️焼きたてを食べてほしいから、注文後に焼き上げる
あまねやのたいやきは、注文を受けてから焼き上げるため、できあがりまで10分から15分ほどかかる。すぐに受け取れる便利さよりも、焼きたてのおいしさを大切にしている。
定番は、「自家製つぶあん」(200円税抜)と「カスタード」(200円税抜)。
日替わりで中身が変わる「気まぐれたい焼き」(200円〜280円税抜)も登場する。
ココアクリーム、宇治抹茶クリーム、ポテトサラダなど、日によって内容はさまざま。誰かとコラボして生まれる味もある。
つぶあんは、市販のものではなく自家製だ。東郷さん自身、市販のあんこの甘さや重たさが得意ではなかったという。だからこそ、甘さを控えめにし、小豆のアクも抑えながら、すっきり食べられるあんこを目指した。
数時間かけて煮込み、重たくなりすぎないように仕上げる。たいやきづくりは、知識ゼロからのスタートだった。福岡はもちろん、東京や大阪のたいやき店を食べ歩き、気になる店の前でじっと焼き方を見たこともあるという。
「めっちゃ怪しいやつだったと思います」。
そう笑う東郷さんだが、その積み重ねが、今のたいやきの皮の食感につながっている。焼きたては外がパリッと、中はもちっと。持ち帰りもできるが、東郷さんがいちばん食べてほしいのは、やはり店内での焼きたてだ。
一緒に味わいたいのが、あまねやのたいやきに合わせてブレンドされた「たいやきブレンドコーヒー」(500円税抜)。香ばしい生地と控えめな甘さのあんこに、ハンドドリップで淹れるコーヒーが寄り添う。
◼️譲り受けたものたちが、店の時間をつくる
あまねやの店内には、誰かの暮らしの記憶を持ったものが多い。
天井のペンキ塗りや床のタイル剥がしは、東郷さん自身が手を動かして整えた。家具や小物は、祖父母の家や近隣の店、友人の家から譲り受けたものが中心だ。
入口近くに置かれたミシンは、親友のおばあちゃんの花嫁道具。赤い角樽は、祖母の家の酒屋で、昔、結納のときに酒を入れて運んでいたものだという。
「縁のある人たちが使ってたものは、できるだけ残しています」。
古いものをただ飾っているのではない。誰かが使ってきた時間を受け取り、この場所の空気に混ぜている。だから、あまねやの店内には作り込みすぎない温かさがある。
たいやきのほか、日替わりランチやドリンクも楽しめる。金曜・土曜には夜営業もあり、お酒と一緒にフードを味わうこともできる。たいやき屋だと思って訪れた人が、ごはんやお酒、イベントに出会って帰る。そんな小さな発見も、あまねやらしさのひとつだ。
◼️小学生も、赤ちゃん連れも、常連も
あまねやに来る人は幅広い。おばあちゃんと孫、ベビーカーを押した親子、自衛隊員、小学生、ひとりで本を読む人。東郷さんは「老若男女、割合がほとんど同じくらい」と話す。
近所の子どもが、親からLINEで予約をしてもらい、一人でたいやきを受け取りに来ることもある。手の中で握りしめたお金は、少し温かくなっている。
店内では、パン屋やごはん屋の出店、金継ぎ教室、ラテアート教室など、さまざまなイベントも行われる。町内に住む漆の職人が教室を開くこともあるという。
人とのつながりが、店のメニューやイベントを少しずつ増やしてきた。計画通りに作り上げた場所というより、出会いの分だけ形を変えてきた場所なのだ。
◼️何もない日も、何かが始まる日も
あまねやが目指すのは、特別なイベントの日だけ人が集まる場所ではない。静かに本を読んで帰る日があってもいい。隣の席の人が読んでいる本に興味を持ち、会話が生まれる日があってもいい。
東郷さんは、理想の姿をこう話す。
「他世代が一緒に自然にいるってことが大事」。
たいやきを買いに来た人が、ごはんを見つける。ごはんを食べに来た人が、イベントを知る。別の日に、ここでまた誰かと再会する。そんな小さな重なりが、日々の暮らしを少しだけ面白くする。
遠賀川駅前にある小さなカフェは、たいやきを焼きながら、人と人の間にあたたかな余白をつくっている。
焼きたてのたいやきを待つ15分。その時間の中で、遠賀町の記憶と、これから広がっていく縁に出会えるかもしれない。
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◼️『たいやきカフェ あまねや』
住所:福岡県遠賀郡遠賀町遠賀川2-1-46
営業時間:金 17:00〜21:00(LO20:00)
土 11:00〜21:00(LO20:00)
日 11:00〜17:00
第1・3水木 11:00〜17:00(LO16:00)
※夜営業は金・土曜のみ
定休日:不定休 ※Instagramのカレンダーで確認
駐車場:専用駐車場なし ※目の前ロータリー最初20分無料、近隣コインパーキングまたは新町商店街駐車場を利用
予約:たい焼きの持ち帰り予約可(LINE)
Instagram:@amane.ya
https://www.instagram.com/amane.ya/
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■ たいやきカフェ あまねや
住所:福岡県遠賀郡遠賀町遠賀川2-1-46
Instagram:@amane.ya
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