◼️路地の先にある、知る人ぞ知る一軒
遠賀川駅から歩いてほど近く。駅前の気配を少し離れ、細い道へ入ると、一軒家のような白い建物が見えてきます。周囲の住宅街に自然になじむ、落ち着いた雰囲気のカフェです。
ここが『日本茶カフェ 風樂(ふら)』。扉を開けると、珪藻土の壁に包まれた温かな空間が広がります。カウンター席、テーブル席、小上がり、半個室のように過ごせるソファ席。店内にはジャズが流れ、和の落ち着きとカフェの心地よさが溶け合っています。
そんな風樂を営む木野さんに、店に込めた思いや日本茶の魅力について伺いました。
◼️倉庫から始まった、手づくりの店
この建物は、もともと八百屋だった場所。木野さんが借りた当時は、荷物がいっぱいに詰まった倉庫のような状態でした。そこから友人や業者の力も借り、壁を塗り、席をつくり、少しずつ今の姿へ整えていきました。
壁に使われている珪藻土は、調湿効果があり、暑さや寒さにもやさしく働いてくれる素材。やわらかな風合いは、店内の空気そのものを穏やかにしています。席の配置や高さ、空間の使い方も、オーナー自身が考えたもの。好きなものを集め、自分の手で形にしてきたからこそ、『風樂』には作り込まれすぎない温もりがあります。
「見に来たときに、この光景がイメージできたんです」。
その言葉通り、この店は偶然空いた場所にできた店ではなく、思い描いた風景を一つずつ現実にしてきた場所なのです。
◼️好きだったお茶を、店の主役に
木野さんは開業前、自宅でホームパーティーを開くことも多く、料理でもてなすことが日常の楽しみだったそうです。周りから「お店を始めたらいいのに」と言われることもあり、好きなことを仕事にしたい、自分のおもてなしでもっと人に喜んでもらいたいと思うようになりました。
開業に向けて、まず必要だと考えたのはスキルアップと人脈づくり。地元の人気ケーキ店で働きながら、ケーキづくりや店づくりを学びました。やがて機が熟し、自分の店を形にしようと考えたとき、最終的に選んだのはケーキ店ではなくカフェという業態でした。そこには、家族との時間も大切にしたいという思いもあったといいます。
カフェを開くにあたり、木野さんが主役に選んだのはコーヒーではなく日本茶でした。当時からカフェは数多くあり、「似たようなお店ではなく、少し違うカフェにしたい」という思いがあったそうです。もともとお茶が好きだったこともあり、日本茶を中心にしたカフェという形へたどり着きました。
今でこそ抹茶や日本茶は国内外で注目されていますが、当時はまだ「お茶はサービスで出てくるもの」という印象も強かった時代。だからこそ、食事やスイーツと一緒に楽しむ“主役としてのお茶”を届けたいという思いがありました。
また、遠賀はお茶の産地ではありません。だからこそ、木野さんはお茶の魅力をきちんと伝えられるように、日本茶アドバイザーの資格を取得。産地や品種、淹れ方を学びながら、日本茶の奥深さを店づくりに生かしています。
◼️“選ぶ・焼く・注ぐ”お茶漬けランチ
『風樂』の看板メニューは「選べる焼おにぎりのお茶漬けランチ」。
お茶漬けと聞くと家庭的な料理を思い浮かべますが、ここでは少し違います。
まず、小さな七輪で自分のおにぎりを焼くところから始まります。おにぎりの大きさは小・中・大から選び、おにぎりの中身はこんぶ、みそ、トマトソースなど。合わせるお茶も、鹿児島・知覧の玄米茶や京都のほうじ茶などから選べます。さらに小鉢やお茶漬けの具まで選べるため、自分だけの組み合わせを楽しめるのです。
焼き目がついたおにぎりに薬味をのせお茶を注ぐと、湯気と一緒に香ばしい香りが立ちのぼります。
茶そばサラダ、自家製とうふ、小鉢、香の物、週替わりデザートも付いたランチは、見た目以上に満足感があります。
「お茶漬けなら家でも食べられる。だから、お店じゃないとできない体験にしたかったんです」。
食べるだけではなく、選ぶ、焼く、注ぐ。そのひと手間が、『風樂』ならではの時間をつくっています。
◼️お客さんからお客さんへ、受け継がれる焼き方
『風樂』には、開店当時から通い続ける人も多いそうです。その人が友人を連れてきて、またその友人が別の人を連れてくる。大きな宣伝よりも、人と人とのつながりの中で店は広がってきました。
そのつながりは、看板メニューの楽しみ方にも表れています。
「最初に来られた方が、次に一緒に来た人におにぎりの焼き方を教えてあげるんです」。
そう嬉しそうに話す木野さん。どのくらい焼けばいいか、どう返せばいいか。店の楽しみ方が、客同士の会話の中で自然に受け継がれていきます。
若い人から年配の人まで、訪れる世代はさまざま。日本茶という誰にとってもなじみのある飲みものが、世代を越えて人をつないでいるのかもしれません。
◼️急須で淹れるお茶のおいしさを、次の世代へ
来店時には、季節ごとのウェルカムティーが提供されます。春夏秋冬で味わいを変え、果物を合わせた香り豊かなお茶が登場することも。お茶は九州産を中心に、食事に合うもの、単独でも満足できるものを、オーナー自身が飲んで選んでいます。
今はペットボトルのお茶が手軽に飲める時代。けれど、急須で丁寧に淹れたお茶には、天然由来の本物の味、香り、変化や余韻があります。
「若い方にも、急須で淹れたお茶のおいしさを知ってほしいんです」。
店内では茶葉の販売もあり、風樂で知った味を家へ持ち帰ることもできます。お茶を特別なものにしすぎず、日常の中で楽しんでもらいたい。その思いが、一杯のお茶に込められています。
◼️遠賀のまちに続く、温かな一服
『風樂』を始めて、およそ19年の時間が流れました。これまで店を続けてこられた理由を尋ねると、木野さんは「お客様のおかげです」と話します。
好きな料理やデザートをつくること。誰かをもてなすこと。お茶の魅力を伝えること。家族との時間を大切にしながら、自分の好きなものを仕事にしてきた日々。その積み重ねが、今の風樂をつくっています。
遠賀川駅のそば、民家のような一軒に灯るお茶の時間。七輪で焼くおにぎりと、丁寧に淹れた日本茶。慌ただしい日常の中で、ふっと肩の力を抜ける場所が、このまちにはあります。
急須で淹れるお茶の魅力を体験しに、ぜひ足を運んでみてください。湯気の向こうに、遠賀で長く愛されてきた理由が見えてくるはずです。
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◼️『日本茶カフェ 風樂』
住所:福岡県遠賀郡遠賀町遠賀川1-2-19
電話:093-293-7023
予約:ランチ電話予約可
営業時間:11:00〜16:00(LO15:00)
定休日:日曜、不定あり
駐車場:店舗斜め向かいに専用駐車場あり
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■ 日本茶カフェ 風樂
住所:福岡県遠賀郡遠賀町遠賀川1-2-19
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