40歳からのチャレンジ　役場職員からイチゴ農家へと転身したワケとは～ふるさとWish岡垣町～

豊かな水と緑に恵まれ、四季折々の自然美をみせる福岡県・岡垣町。澄んだ空気と肥沃な土壌、おいしい水がさまざまな農産物を育む農業地域です。

農業地域が抱える深刻な問題

そんな岡垣町で鮮やかに色づいた「あまおう」を栽培しているのが柴田智昭さん（42歳）。町で採れた良質なイチゴは、北九州市近郊をはじめ幅広い地域の市場で取り扱われ、この時期は高いもので1パック1000円前後の価格でスーパーに並んでいます。

「去年より量は無事に採れるかな…」と実ったイチゴを一つひとつ丁寧に摘み取り、収穫していく柴田さん。長女の美月ちゃんは、このハウスで採れたイチゴが大好きだといいます。

実は柴田さん、2年前まで町役場の職員として勤務していました。しかし、40歳で一念発起し、イチゴ農家へと転身したのです。

人口約3万1700人。岡垣町の主な産業は農業なのですが、農業従事者の高齢化や担い手・後継者不足などの課題を抱えています。実際、町には、無残にも骨組みだけになったビニールハウスや、草が生え、荒れ放題になった畑などが点在。耕作放棄地はこの10年で10倍以上に増え、農家数も減少傾向にあります。町役場職員として、その現状を目の当たりにしていたはずの柴田さん。どうしてイチゴ農家への転職を決意したのでしょうか？

経験ゼロで農業へ転身！

役場の農林水産課に勤務し、農家の方と接する機会が多かったと話す柴田さん。「農家の方から野菜をもらった時に、おいしかったですと伝えると、本当にうれしそうに喜んでくれて。その姿を見ていいなと思っていたんですよね」と、農業へ転身するきっかけを話してくれました。

当時柴田さんは40歳。一念発起し、初期費用2000万円を投じて7棟のハウスを建設しました。安定した職を辞める決断に、家族の反対はなかったのでしょうか？

妻の奈美さんは、「収入がいったん、ゼロになるという点はどうなるんだろうと心配でした。でも一度きりの人生なので…。彼はできる人だと思っているので、私はそれについていこうと…」と夫の決断を後押ししたといいます。そんな奈美さんの言葉に、「実際、とても不安だったと思いますが、そう言ってもらえるとありがたいですね」と柴田さん。夫婦の間に確かな絆が見えた瞬間でした。

そんな柴田さんをサポートしてくれたのが、イチゴ農家歴19年の辻政幸さん（69歳）です。「農薬のまき方や水がどれくらい必要かとか、そんなことも分からなかった」というほど、“経験ゼロ”の柴田さんにイチゴ栽培を一から教え、今も細やかにアドバイスしてくれています。

柴田さんは就農するにあたって、農業をはじめる人を支援する国の事業を活用。最長5年の補助金を受け、サポーターに指導してもらっています。辻さんはこのサポーターとして、国から指導報酬を受け、就農者の状況を報告する役割を担っています。指導の回数に決まりはありませんが、辻さんは週5回、柴田さんのもとを訪れることもあるほど熱心に指導してくれています。

「（新しい方が）就農するのは、自分たちにとっても大変なこと。指導しながら自分の農作業もありますからね。でも、農業の未来が段階的につながっていくことは嬉しいことです。出来ることはしてあげたいと思います」と辻さんは言います。柴田さんのような若き農業の担い手こそ地元産業を支えてくれると、夢と希望を託しているのです。
そんな辻さんに、今シーズンできたばかりのイチゴを食べてもらいました。「まだ時期的に甘みが強くはないかも…」と自信がなさそうに差し出す柴田さんに、「おいしいよ！」と辻さん。師匠からの太鼓判に今年の手ごたえを感じたようです。

「イチゴの表情を見ながら、病気にならないようにとか、急に害虫が発生しないようにとか、トラブルになっても手塩にかけている感じが楽しいです」と、農業という新たなフィールドで「やりがい」を感じている柴田さん。将来は、観光農園や加工食品を作ったり、妻にカフェでイチゴのスイーツやケーキを作ってもらったりしたいと展望を語ってくれました。

年齢に怯まず、「やりたい！」と思ったことに果敢に挑んだ柴田さん。そんな熱意に共感し、支え続ける心強いサポーター。こうした「人々の思い」こそ、かけがえのない町の魅力を守ってくれる財産となるに違いありません。人の温かさと自然の恵みにあふれる岡垣町の未来は、きっと明るい！！

※この記事は2019年の情報です（「シリタカ！」11月27日放送）。内容は変更している可能性があります。事前にご確認ください。