【知る人ぞ知る名店】メニュー全て500円!? 新札使用不可!?昭和以上に昭和的な人情食堂を発見!九州でいちばん小さな町のみんなの愛で支えられている『昭和食堂』が値上げしない理由(福岡・吉富町)【まち歩き】
吉富町・昭和食堂。
カツ丼が500円。ご飯の大盛りは無料。
何もかもが値上がりしていくこの数年、どこかで一度は目にしたはずの「申し訳ありませんが、価格改定を」という一文を、この店は出していない。
福岡県築上郡吉富町。面積は5.72平方キロメートル、沖縄を除けば九州でいちばん小さな町である。
その町のセブンイレブンの裏手に、「昭和食堂」はある。
畳六畳もない、小さな店だ。
券売機には、新しいお札が入らない。
直せばいいのに、直さない。
取材を終えて店を出たとき、頭に残っていたのは安さではなかった。
この500円は、店の努力だけでできているのではなく、
卸の人と、農家と、通ってくる客と、みんなで少しずつ愛を持ち合ってできている。
■井戸小屋だった場所に、食堂ができた
昭和食堂を運営するのは、この町で給食事業を営む有限会社吉富亭給食センター。
病院食、介護施設の食事、企業への弁当配達、社員食堂の受託。長く、食べる人に直接手渡す機会の少ない場所へ、料理を届けてきた会社である。
「ここが母体なんですよ。給食センターに食材はいっぱいある。でも、ここには飲食を提供する場がないよね、と」
センター長の金澤真さんはそう振り返る。
目をつけたのは、隣にあった小屋だった。
もともとは井戸小屋。井戸が枯れて使わなくなっていた建物を改装し、調理器具を入れ、保健所の検査を通した。
令和3年11月、「昭和食堂」として店が開いた。
■一度、閉まっていた
ただ、この店はずっと開いていたわけではない。
開店から一年半ほどで、厨房に立っていた人が体調を崩した。
「私が代わりに入るわけにもいかなくて」と、いったん休業に入る。
再び灯がついたのは、2026年5月26日。
受託していた社員食堂の契約期間が終わるタイミングで、そこで働いていた方に声をかけた。
「こっちでしませんか」。そう聞くと、やろうか、と返ってきた。
いまは、その一人が厨房のすべてを回している。
「ワンオペです。じゃないと、500円にならないですからね」
■出汁が効いた、甘めの丼
メニューはカツ丼、豚キムチ丼、カツカレー、うどん定食、玉子丼うどん付き。
カレーだけはもともと会社にあったレシピで、丼物とうどんは金澤さんがつくった。
下敷きになったのは、社員食堂で出していた丼物だった。ただ、そのままでは使えなかったという。
「元々は醤油ベースで、しっかりした味付けだったんです。ただここで出すなら、それは違うかなと思って」
社長と相談して向かった先が、「昔の、僕たちが食べていた味」。
出汁を効かせ、甘みを立てる。行き着くまでに一ヶ月半かかった。
出てきたカツ丼には、赤玉が二個。しっかりととじられて、ご飯が見えないほどになっている。スパイスのような余韻があるのは、いくつかの隠し味のせいらしい。
■待つ人がいて、早く帰る人がいる
令和3年11月当初は立ち食いから始め、途中にコンテナを設置し今のスタイルとなる。
席は七つしかない。
注文から提供までは五分から十分。
昼休みという限られた時間に来る客が多いから、食べたらすぐに立つ。
多い日は二時間で四回転、三十人を超える。
一人で回している店だから、どうしても待たせてしまうことがある。
そこを、客のほうが引き受けている。
「皆さんご理解いただいて、待ってくださるんですね」
セルフサービスなのも同じ理由だ。
下げるのも、席を空けるのも、自分で。
ここに通う人は、この店が一人で回っていることを知っている。
知っていて、次の人のために早く平らげて店を後にする。
■こだわりのワンコイン
近隣でワンコインを掲げていた店も、この物価高で550円になり、600円になった。
値上げしなければ続けられない――金澤さん自身、その事情はよくわかっている。そのうえで、この店は動かない。
「うちは、こだわりのワンコイン。何が何でも上げない」
「その分の利益等は減っていきますけども」と金澤さんは言う。
それでも成立しているのは、この店だけが頑張っているからではない。
卵は中津の卸から、三、四年前の価格のまま入ってくる。いま一パック三百円近く、赤玉なら三百五十円を超える時代に、である。
とんかつも、出汁の素も同じだ。米は豊前の山手でつくられた夢つくしを、農業法人と年間契約で。ブレンドではなく、純国産の一種類だ。
「ここに出すんやったら、金額を抑えましょうと言ってくださる。いろんな業者さんの協力があって、今のワンコインが維持できている。私どもだけじゃないんです」
地元の業者は、自分が卸した卵を食べに立ち寄ることもある。うちの卵を使っとるやないか、と言いながら。
そして、券売機である。
新札が使えない。
札入れの部分を交換すれば済む話なのだが、その機器がとにかく高い。
「あれを変えると、価格を上げないといけないんで」
だから、変えない。代わりに、500円玉を持ってきてほしいとSNSで発信している。
新しい500円玉も使える。どうしても新札で来た人には、旧札を用意して両替する。
「皆さん、500円玉を握りしめて持ってきてくれますよ」
設備投資はかけない。従業員は増やさない。それで客が喜んで帰るなら、それでいい。ご飯の大盛りも、追加料金は取らない。
■母体があるから、成り立つ
この形は、食堂だけを切り離しては再現できない。金澤さんははっきりとそう言う。
「この食堂を単独でするとなると、厳しいです。無理ですね」
給食事業として大量に発注するから、原価が下がる。その分を、店に食べに来てくれる人に回す。
会社の弁当は650円。店まで足を運んでもらえれば、500円で食べられる。
グループでは医療や福祉の事業所も手がけている。
安く、腹いっぱいに食べてもらえれば、利益はいくらかあれば十分。
金澤さんの語り口には、その事業で培われた考え方がにじんでいた。
■社長のこだわりと、「昭和」という名前
社長のこだわりは、昭和の時代のおふくろの味を、大人から子どもまで、低価格で食べてもらうこと。
お客さんがおなかいっぱいになって帰れるように、と心がけて提供している。
店名にも、その思いが込められている。昔みんなが食べた、おふくろの味を出したい。そこで「昭和食堂」と名づけた。
もうひとつ、理由がある。この一帯は、昭和区と呼ばれる地域なのだ。
「たまたまというか。ちょうどいいわ、という形で」
昭和区にある昭和食堂で、昭和の味が500円で出てくる。
狙ったわけではないのに、名前のほうが後から追いついてきたような話である。
「今はもう、ラーメンも1,000円の時代ですし」と金澤さんは言った。カツ丼だって、700円、800円は珍しくない。
そんな時代に、この小さな店は削って、交渉して、なんとか三桁を守り続けている。
守っているのは、店だけではない。卸の人がいて、農家がいて、七席を譲り合う客がいる。
新札は、使えません。500円玉を、一枚握って行ってください。
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■『昭和食堂』
住所:福岡県築上郡吉富町広津275-2(有限会社吉富亭給食センター隣)
電話:0979-22-4045(吉富亭給食センター)
営業時間:11:00〜13:00
定休日:土・日曜、不定休(詳細はInstagramを要確認)
Instagram:@yoshitomitei.kc
https://www.instagram.com/yoshitomitei.kc/
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※記事内の情報は2026年9月取材時点のものです。最新の情報は公式Instagramをご確認ください
■ 昭和食堂
住所:福岡県築上郡吉富町広津275-2(有限会社吉富亭給食センター隣)
Instagram:@yoshitomitei.kc
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