ドラゴンロードの劇的濃密豚骨 「天龍ラーメン」豚骨戦士 福岡のラーメンを斬る! VOL.42~ふるさとWish 志免町~
福岡県志免町を通るロッパチ(県道68号)は、屋号に“龍”がつくラーメン店が点在していることから「ドラゴンロード」と呼ばれ、ラーメンファンに熱視線を送られている。幸龍、喜龍はじめ、ロッパチと平行する通りのドラゴンの一角・扇龍(本連載VOL.40で紹介)など。さらに近年、屋号に龍は付かないがアゴダシ中華そば「六味亭」、最新店「双喜紋」もデビューし、同エリアで啜れるラーメンもより多彩になってきた。ロッパチの“龍”は、幸龍を原点とし、長い歴史のなか定食も出すラーメン食堂に変化してきた店が多い。しかし、今回の主役である「天龍ラーメン」はそれとは異なる独自の“龍の道”を歩んできた古株。1973年創業。いまなお豚骨1本で存在感を放っている。
ドラゴンロードの申し子・龍之介が豚骨1本で勝負する
現在「天龍ラーメン」の暖簾を守っているのは若き2代目店主・森崎龍之介さん(1988年福岡志免町出身)。森崎さんの名前“龍之介”は屋号“天龍”からとったもの。子供の名前にちなんだ屋号はたまに聞く話であるが、その逆、屋号に由来した子供の命名で、かつ本人が店を継ぎ厨房に立っているとは珍しい。龍之介さんはまさに、ドラゴンロードの申し子のような男である。
「創業者は私の祖父母。幼いころからおじいちゃん子だったので、いつも側に引っ付いていて、仕込みの時にもよく厨房にトコトコ入ってました。ラーメン店の熱気を肌に感じて育ち、一生懸命働く祖父母の背中もずっと見てきた。やっぱり職人はかっこいいなと。一度はサラリーマンも経験しましたが5年前、本格的に家業のラーメン道に進むことを決めたんです」と龍之介さんは話す。
福岡ラーメン界きってのイケメン、キラキラ男子風の龍之介さんが作るラーメンは意外にも、それはそれは濃厚で猛々しい。濃度計が15.8%(一般的な博多ラーメンは10〜11%、袋ラーメンは4〜5%)を指す重厚感は大量の豚骨に由来。かつ、ラードや背脂は全く使わないため、ギトギトしていないのが特徴である。
厨房にドスンと据えた羽釜に、“追い骨”をしながらガンガン炊いていく。さらに豚足も加えることでとろみ、重厚感がアップ。もう一つのサブ釜と、スープ、骨を行き来させながら味を調整し、最終的には本釜(売り釜)へと移っていく。
同店は下処理を徹底した豚骨を使い、1〜6番ダシと6回スープをとる。序盤、豚骨は形をとどめているが、次第にボロボロに。良質な骨粉だけ残し、さらに臭いを抑えるため、骨を上げて余分なものは丁寧に取り除く。5、6番になると、羽釜の底に崩れた骨がたまってしまうため“あたらないよう”(焦げ付かないよう)頻繁に混ぜることが肝要。
「祖父母のラーメンはもちろん豚骨ですが、私にとっては幼少から親しんできた味噌汁のような存在。“家の味噌汁の特徴は?”と聞かれて困るように、私も当初、森崎家のラーメンについてどこがポイントかよく分からなかった。ラーメン作りの技術は学んだものの、そんな状態でスタートをきったものだから最初は迷子状態でしたね。一風堂さんに“変わらないために変わり続ける”というモットーがありますけど、私もそれを取り入れることに。まずは、祖父が感覚でやっていたラーメン作りを数値化してしっかりと理解。その上で油関係は排除して、とろみを増すため豚足を加えました。獣臭も出ないよう下処理、アク取りをより丁寧にして、煮込む火力もアップ。自分なりのブラッシュアップを重ねるうちに、離れていった常連さんも戻って来てくれたんです」。
森崎さんはラーメン作りにはとても熱い男だ。
いいものは取り入れて進化したいと、今年9月には自家製麺の小麦を「吟麦」に切り替えた。香り高い全粒粉の細麺が特濃スープにねっとりと絡んで美味。
1日1日の積み重ねで、味わい、サービスともに“一杯の切れ味を増す”。
龍之介さんは、その思いで節目の50周年へと向かっている。
【天龍ラーメン】
住所:福岡県糟屋郡志免町南里1-3-31
電話:092-935-1588
営業時間:11:30〜20:00
休み:木曜
席数:19席
駐車場:11台
上村敏行(かみむらとしゆき)。1976年鹿児島生まれ。2002年よりラーメンライターに。以降年間300杯を食べ歩き「ラーメンWalker」はじめ各媒体での執筆活動、ラーメンイベント監修などを行う。KBC地域リポーター。
※この記事は2019年の情報です。内容は変更している可能性があります。事前にご確認ください。