【トランプ×マスク対立激化】蜜月終焉で罵倒合戦“減税法案に暗雲”決裂の代償は?
国際|
06/08 22:07
米国政界における異色の蜜月関係が、突如として崩壊の様相を呈している。政治と経済の両輪として、歩調を合わせてきたトランプ大統領とテスラ社CEOイーロン・マスク氏の間で、減税法案を巡る激しい応酬が展開され、政界・財界双方に波紋を広げている。5月30日、マスク氏が政府効率化省(通称DOGE)の役職を降りることになり、トランプ氏から「金色の鍵」を授与された。マスク氏はその際、「トランプ氏の友人であり、アドバイザーであり続ける」と述べ、依然として関係は良好と見られていた。しかし、空気は数日で一変する。6月3日、マスク氏は自身のSNSで、トランプ氏の肝いりである減税法案について、「何でも詰め込まれた不快で忌まわしい法案だ」と強く批判。マスク氏は、「この法案に賛成した議員は恥を知れ」と言い放った。これに対し、トランプ氏は6月5日の会見で、「私は非常に失望している。法案ではなく私を批判してくれた方がよかった」と不快感をあらわにしつつ、「イーロンが怒っているのは、我々がEV義務化を撤回したからだ」と真意を探る発言を行った。また、「彼は法案の中身をすべて把握していた。何の問題も感じていなかった」と主張した。 マスク氏は即座に反論。SNS上で「嘘だ。この法案は一度たりとも私に見せられたことはない」と否定した。両者の応酬はエスカレートし、トランプ氏は同日の記者会見で「イーロンがいなくても、ペンシルベニア州で勝利していた」と発言。これに対し、マスク氏は、「私がいなければ、トランプは選挙に敗れていただろう。なんて恩知らずなんだ」と非難した。また、マスク氏はSNS上で、「トランプ氏は弾劾され、バンス副大統領が後任になるべきだ」と記され第三者の投稿に「イエス」と応答。政権内部への明確な対立姿勢を示した。トランプ氏は「(マスク氏は)正気を失った。対話の予定はない」と突き放し、両者の関係修復は絶望的との見方が強まっている。 両者の対立は、政争の延長線ではなく、国家の信用を損なう火種として、急速に燃え広がっている。マスク氏は6月6日、自身のSNSで、トランプ氏をジェフリー・エプスタイン氏の“文書”に関係づける投稿を行い、国内外に衝撃を広げている。マスク氏は「とんでもない爆弾を投下する時が来た」と切り出し、「トランプ氏はエプスタイン文書に含まれている。それが公表されていない本当の理由だ」と投稿した。この投稿から10分後、マスク氏は再びSNSを更新し、「この投稿を将来のために記録しておいて。真実は明らかになるだろう」と記し、事実関係の開示を改めて促す姿勢を見せた。エプスタイン文書とは、2008年に児童売春などで有罪判決を受け、2019年に勾留中の独房で死亡した米実業家ジェフリー・エプスタイン氏に関連する一連の捜査資料であり、著名な政財界関係者の関与が噂され続けてきた機密文書である。エプスタイン事件の弁護にあたったデービッド・ショーエン弁護士は、トランプ氏に傷を与えるような情報はないとXの投稿により事実関係を否定した。トランプ氏は、ショーエン弁護士の投稿を引用し、自身のSNSに投稿した。一方、マスク氏はエプスタイン氏に関する投稿を削除した。 トランプ氏とマスク氏の決裂は、市場にまで波紋が広がった。米電気自動車大手「テスラ社」の株価が、6月5日の取引で、前日終値比14%の大幅下落を記録した。時価総額にして約1524億ドル(約22兆円)が一日で吹き飛び、同社としては過去最大の下落幅となった。5日のニューヨーク市場で取引が行われる中で、SNS上では両者によるリアルタイムの舌戦が激化していた。蜜月関係にあった両者が、個人的感情を交錯させながら、極めて異例の形で公衆の面前で対立を展開し、その応酬が投資家心理に直撃した。 米政界と財界の象徴的関係とされたトランプ氏とマスク氏による蜜月が、激しい対立の末に崩壊し、双方に計り知れぬ損失をもたらしつつある。まず矛先を向けられたのは、マスク氏率いる企業群。政府は、スペースXをはじめとするマスク氏の企業との契約見直しに着手。とりわけ、NASAからの152億ドル(約2兆2800億円)規模の契約、また、米国防総省との58億ドル(約8700億円)の国防契約について終了を示唆した。一方で、トランプ陣営にも少なからぬ打撃を与える。2024年の大統領選挙において、マスク氏は総額2億7400万ドル(約411億円)に及ぶ政治献金を行っていた。今後、こうした資金が失われることになれば、共和党、トランプ氏側は深刻な影響を受けるとみられる。 ★ゲスト:ジョセフ・クラフト(経済・政治アナリスト)、渡部悦和(元陸上自衛隊東部方面総監) ★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)