【トランプ関税に初司法判断】大統領権限を逸脱“政権は上訴”TACO理論には苛立ち
国際|
06/01 22:00
トランプ米大統領は5月28日、ホワイトハウスで行われた記者会見で、関税政策を巡る質問に対し、強い語調で激しく反論する場面が見られた。質疑の中で、ある記者が「ウォール街では、トランプ大統領が関税の脅しをかけても、結局は尻込みするため、それを好感して株価が上昇するとの見方がありますが、どう受け止めますか」と問いかけた。これに対し、トランプ氏は「私が尻込みする? そんな話は聞いたことがない。最も不快な質問だ」と即座に反応した。 この発言の背景には、トランプ氏の関税政策に関して生まれた造語「TACO(Trump Always Chickens Out)」がある。これは、「トランプはいつも尻込みする」という意味で、米金融市場の一部で使われ始めた言葉とされる。強硬な関税方針を掲げながらも、実際には市場への悪影響や外交上の配慮から後退する傾向があるとの認識に基づいている。このTACO理論は、トランプ政権が市場や経済界からの圧力に対する耐性に欠け、関税が実体経済に痛みをもたらすと、速やかに方針を転換するとの見方を表現している。この造語は英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」の記者により考案され、5月2日付で報じられていた。 トランプ氏は5月25日、欧州連合(EU)のフォンデア・ライエン欧州委員長との電話会談を行い、EUからの輸入品に対する新たな関税の発動を、当初予定していた6月1日から7月9日へと延期することで合意したことを発表した。この決定に先立ち、トランプ氏は5月23日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」において、「EUとの貿易障壁と関税の協議がまったく進展していない」と不満を示し、「EUからの輸入品に対し6月1日から50%の関税を課す」と投稿していた。 米国の貿易政策を巡り、重大な司法判断が下された。貿易・通商紛争を所管する米国国際貿易裁判所は5月28日、トランプ大統領が導入した一連の追加関税、いわゆる「トランプ関税」について、大統領の権限を逸脱し、違法であるとの初判断を示し、その執行を差し止めるよう命じた。トランプ氏は4月2日、経済緊急事態を根拠に発動した「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づく相互関税を発動した。発動当時、トランプ氏は全輸入品に対して一律10%の関税を課す相互関税を打ち出し、発動を正当化した。加えて、合成麻薬「フェンタニル」の流入対策を名目に、中国・カナダ・メキシコに対して追加関税も課していた。同裁判所は通商拡大法第232条に基づく鉄鋼・アルミ・自動車部品などへの25%関税措置については対象外とし、差し止め命令の適用を見送った。 この判決に対し、トランプ政権は即座に反発。5月29日、控訴審にあたる連邦控訴裁判所は政権側の申し立てを受け入れ、国際貿易裁判所による差し止め命令の効力を一時停止すると決定。これにより、当面の間、トランプ関税は継続される見通しとなった。トランプ氏は同日、自身のSNSで、「国際貿易裁判所の判決は、全く間違っており、全く政治的だ。最高裁がこの恐ろしい国を脅かす決定を迅速かつ断固として覆すことを願う」と投稿し、強い不満を示した。 トランプ氏は5月30日、米鉄鋼大手「USスチール」の工場で開かれた集会で演説し、輸入鉄鋼製品に対する関税を現行の25%から50%に引き上げる方針を明言した。さらに同日、自身のSNSにおいて、「鉄鋼とアルミニウムの関税を6月4日から50%に引き上げる」と投稿した。米中両国が進めてきた関税一時停止合意の行方が、再び不透明な情勢となってきた。トランプ氏は同日、自身のSNSで、中国政府の対応を強く非難し、「中国はアメリカとの合意に完全に違反した」、「ミスター・ナイスガイでいるのは、もう終わりだ」と投稿した。米中両政府は先月、報復関税の応酬を一時的に停止し、90日間の関税停止合意に踏み切ったばかりだった。 トランプ氏が掲げる経済政策の二本柱である関税強化と歳出削減と大型減税。その一翼を担ってきた実業家のイーロン・マスク氏が5月30日、特別政府職員の任期期限を終え、退任した。マスク氏の側近として活躍し、政府効率化省における事実上のナンバー2にあったスティーブ・デイビス氏も同時に離任した。マスク氏は、大統領選の時からトランプ氏を支援してきた人物であり、政権発足後は政府効率化省(DOGE)の長として、歳出削減の旗振り役を務めてきた。 トランプ氏は5月30日、マスク氏とホワイトハウスで共同会見を開き、政権運営における同氏の貢献に対し、公の場で謝意を表明した。トランプ氏は、「彼は信じられないほど愚かな歳出を見抜き、ワシントンの古い手法に巨大な変革をもたらした」と称賛。一方、マスク氏も「(大統領の)友人であり助言者であり続ける。必要とされれば、いつでもお役に立ちたい」と述べ、政権との距離を保ちながら、協力する姿勢を滲ませた。会見には、マスク氏との口論が報じられていたベッセント財務長官も同席。ホワイトハウスで送別の場が設けられたのは異例。一方で、マスク氏は、トランプ政権が進めた大規模減税法案については批判的立場で、「巨大な歳出法案には率直なところ、失望した。財政赤字を減らすどころか増やすもので、政府効率化省の取り組みを台無しにする」と財政規律の欠如に苦言を呈していた。 ★ゲスト:中林美恵子(早稲田大学教授)、小谷哲男(明海大学教授) ★アンカー:末延吉正(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)