【わざわざ行きたい店】一週間じっくり手をかけた牛テールカレーを鳥のさえずりの中で。『手づくり工房 アーダニン』山の中で26年、夫婦がつくる「自分たちが行きたい店」(福岡・宮若市)
若宮インターを降りて、細い道を山のほうへ。ほんとうにこの先にお店があるのだろうか、と思いはじめたころに、木々の間から黒い外壁の建物が見えてきます。宮若市金丸の「手づくり工房 アーダニン」。車を降りると、聞こえるのは鳥の声だけ。扉の向こうは木のぬくもりのある山小屋のような空間で、窓の外には緑が広がっています。ほとんどのお客さんが頼むのは、一週間かけて仕上げる牛テールカレー。この山の中を目指して、遠くから人がやって来ます。
■山の中に、「行きたい店」をつくる
店主の小森三徳さんは、もともと会社勤めでシステムエンジニア。40歳を迎える前に会社を辞め、料理を独学で学びました。奥さまはパンを学び、ふたりで店を立ち上げます。
「要は、我々が行きたいような店をつくったんです」
開業は26年前。外は黒くモダンな印象で、中は丸太小屋のような雰囲気。この形は当時から変わっていないそうです。
最初は手作り雑貨を委託で販売しながら、喫茶を営んでいました。
「カフェだけじゃなかなか難しいじゃないですか。特にこんな山の中じゃね。だから料理を出そうと、いろいろやって。そうしたら牛テールカレーが一番人気になって」
■「心の中の家」という名前
店名「アーダニン」を選んだのは奥さまです。
「インディアンの言葉で、『心の中の家』という意味なんです。この地域に、みんなが集まれる喫茶店をつくりたいというのが第一のコンセプトでした」
当時心ひかれていたのは、ネイティブアメリカンの暮らし方でした。自然を大切にし、朝日とともに起きて、夕日とともに眠る。
「そういう暮らしが、この地域の人たちにも合ってると思って。ぴったりだなと」
その言葉どおり、ここの朝は早い。暗いうちからパンを仕込んでいると、夜明けとともに鳥が鳴きはじめます。
「普通は鳥の声に感動するじゃないですか。でもね、うるさいくらい鳴くんですよ」と小森さん夫妻は笑います。夜にはイノシシがカサカサと歩きまわり、ウリ坊が走っていくこともあるそうです。お店のInstagramには、セミと鳥の声が重なる動画も上がっています。
■一週間かけて仕上げる、牛テールカレー
客の7〜8割が注文するという牛テールカレー。長年作り続けてきた看板メニューです。
「大きな寸胴で一度に大量に作るんです。一週間かけて煮込みます。煮込むので食材の形が無くなり、トロトロになります。」
使うのはすべて和牛。骨とテールとスジで出汁をとり、和牛の旨みと玉ねぎで甘みを出します。仕上げに入れるのは頬肉です。
運ばれてきたカレーは、ひと口めにスパイスがしっかり立ち上がります。お肉はルーに溶け込むように形がほとんど残っていないのに、噛むたびに肉の味が濃く広がります。一週間という時間が、ルーそのものに染みこんでいるような味わいです。添えられたらっきょうも、箸休めにちょうどいい。
レシピは、独学で少しずつ味を上げていき、完成してからは変えていないといいます。
「これ以上手を入れよったら、なんか変な方向に行きそうでね」
価格は単品で税込820円、スープ・サラダ・水出しコーヒーのセット税込1,200円、さらにデザートがついてメインのサイズがちょっと小さめになったセットも1,200円で提供。メインもしっかり食べたい方は税込1,400円のセットを注文しましょう。多くの人がセットを頼むそうです。
■毎日、飽きずに食べられるパン
奥さまが焼くパンにも、はっきりした考えがあります。
「子どもに、普通に食べてもらいたいパン。材料もシンプルにして、余計なものは入れず、卵も塗らずに焼いてます」
パンは教室に通って学んだそうです。
「食パンが美味しいって言われるのが一番、パン屋さんとして嬉しい言葉なので」
店ではバーガーやトーストにして出しています。店で食べるパンは大きめにして、インパクトのある一品に。一方、直売所に出すパンは値段を抑え、やわらかめに焼き可愛いサイズで作っています。年配のお客さんが多いから、という理由です。
「ありがたいことに売上も好調で、すぐに売れてしまうパンもあります」
■窓の外の緑と、わざわざ来てくれる人
人気の席は、外の景色が見える窓際。外にも席があり、ワンちゃんと一緒に訪れて、外で食事をする人もいます。秋には山が紅葉に染まり、毎年とても綺麗なのだそう。
「何より車の音がしないから、のんびりしてもらえる。『違う場所に来たみたい』って言われます」
最近は、SNSを見てレンタカーで訪れる韓国からの個人旅行者も増えました。脇田温泉に泊まり、自転車で訪れる人もいるそうです。
店は宮若市の「まちの駅」でもあり、旅の人からは美味しいぶどう屋さんやお米のことをよく聞かれます。「これからどこへ行くの」と尋ねて、「じゃあ、ここに寄ってみたら」と道案内をすることも。宮若の昔話に由来するキャラクター「追い出し猫」にちなんで、猫の肉球のかたちをした「猫足クッキー」も作っています。
テレビやSNS、クチコミ。お客さんはさまざまな形で店を知り、山道を上ってきます。
「なんらかの形で知ってくださって、来てくださるから、ありがたいなと思います。うちの場合は、ここをめがけて来てくださるからね」と奥さまは話します。
通りすがりに見つかる店ではありません。だからこそ、この店を目指して、山道を上っていきたくなります。車の音のしない窓際で、一週間かけたカレーをゆっくり味わう。紅葉が始まるころ、宮若市の山の中にある「心の中の家」を訪ねてみませんか。
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■『手づくり工房 アーダニン』
住所:福岡県宮若市金丸176-1
電話:0949-52-3388
営業時間:11:00〜15:00
定休日:水・木曜
Instagram:@ain.dah.ing
https://www.instagram.com/ain.dah.ing/
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※情報は2026年9月時点の取材内容をもとにしています。営業時間・営業日は変更となる場合があります。最新情報は公式Instagram等でご確認ください。
■ 手づくり工房 アーダニン
住所:福岡県宮若市金丸176-1
Instagram:@ain.dah.ing
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