本好きならずとも必見!まちの裏観光案内所!倉庫リノベの個性派書店!地域とつながり、人との出会いが生まれる場所。『taramu books & cafe』(福岡・大牟田市)【まち歩き】
福岡県大牟田市。西鉄大牟田駅から徒歩3分の場所に、一見すると倉庫のような建物がある。引き戸を開けると、そこは本と雑貨とコーヒーの香りが混ざり合う、不思議な居心地の良さに包まれた空間だ。
『taramu books & cafe』。2016年10月にオープンしたこの店は、店主・村田幸さんが10年かけて準備し、夫婦でDIYリノベーションした倉庫を舞台に、本屋とカフェを融合させた独自の世界を作り上げている。
■多様なキャリアのすべてを注ぎ込んで
「もともと雑貨が好きで、いつか自分の店を持ちたいという漠然とした思いがあったんです」。
村田さんは地元企業で10年間事務職として働いていたが、このままでは夢は叶わないと転職を決意する。転機となったのは、求人情報誌で見つけたアメリカのグリーティングカード会社の福岡支店設立の求人だった。
「雑貨が好きだったので、ちょっと受けてみようかなと」。
採用後は直営店の店長を2年経験し、その後営業所に異動。九州エリアのルート営業を担当し、レンタカーで長崎から大野城、別府まで店舗を回り、商品陳列の提案なども行った。
「この営業経験が本当に楽しかったんです」。
しかし、会社の日本事業縮小に伴い退職。学生時代に取得していた図書館司書の資格を活かし、大牟田の図書館で勤務しながら、開業資金を貯める10年計画を立てた。さらに夜間は本やCD、ゲームを扱う複合店でアルバイトを2年間続け、多様な商品展開のノウハウを吸収した。
「本屋だけでは自信がなかったんです。いろんなことをやっているところを見ておこうと思って」。
■倉庫が生まれ変わる。夫婦で1年のDIYリノベーション
開業準備と並行して、村田さんはパン教室にも通っていた。名古屋出身の友人から「九州には名古屋のようなモーニング文化がない」と聞き、開業当初からモーニングサービスを提供することを決めたのだ。朝7時から夜7時までという営業時間は、「仕事帰りの人も立ち寄れるように」との配慮から設定された。
物件は自宅から自転車で通える範囲で探していたところ、現在の倉庫を発見。大家から「自分で改装していい」という好条件を得て、大工である夫の協力のもと、約1年かけて仕事の合間にリノベーションを行った。
元々2階建てだった建物の天井を抜き、開放的な空間を創出。内装には農家からもらった古いタンスの引き出しを棚として再利用したり、図書館で廃棄予定だったカードケースをディスプレイに使ったりと、古道具を積極的に活用している。着台に足をつけてテーブルを作り、のれんも自身で染めた。
「コンセプトは『ちょっとダサい』雰囲気なんです。おしゃれすぎると入りづらいじゃないですか」。
この親しみやすさこそが、『taramu』の魅力だ。
■手書き新聞400部と顧客主導の部活動
店内を見渡すと、手書きの「taramu通信」が置かれている。毎月約400部を手作りし、福岡市内や久留米、長崎など約50店舗に配布している広報紙だ。原稿は夫が担当し、村田さんが印刷・裁断を行う。
「SNSを使わないお客様も多いので。手書きの温かみが好きだと言ってくださる方もいて、これを見て来店される方もいるんです」。
店ではほぼ毎日、パン屋の催事やワークショップなど多様なイベントを開催している。さらにユニークなのが、顧客主導の「部活動」だ。登山部、読書部、焚き火部、マラソン部、手芸部など多数の部活が存在する。
「ある男性のお客様から『読書部みたいなのってないんですか』って聞かれて。じゃあ作るかってなって、その方を部長にしたんです。部長の都合のいい日に開催して、来れる人が集まる形式になりました」。
店主一人で運営しているため、顧客が主体的に動く仕組みを作ったのだ。
■「本当にいいもので、説明できるもの」だけをセレクト
書籍のセレクトは、村田さんの感性が光る。図書館司書時代の経験を活かし、大手チェーン店との差別化を意識して、普段本を読まない人でも手に取りやすい本や小規模出版社の本を中心に選んでいる。
「小説は山のように出ているので、チェーン店に任せて。うちは、ちょっと変わった本を置きたいんです」。
取次を介さず出版社と直取引が中心のため、返品は不可。仕入れた本は売り切る責任が伴うが、その分、自分が本当にいいもので、村田さんが説明できるものだけを扱える。
雑貨も同様だ。店内には久留米の福祉作業所が作った「あべつかみ」という鍋つかみが置かれている。コロナ禍に安倍総理が配布したマスクの在庫を活用し、マスク3枚を中に入れて作られたユニークな一品で、同じ柄一つないカラフルな模様が人気を読んでいる。
■本と雑貨とコーヒーが繋ぐ、意外な縁
パンなどの商品も、自身が食べて美味しいと判断したもののみを仕入れる。奈良のパン屋を旅行先で食べて感動し、通販で取引を開始したところ、なんと店主が5歳まで大牟田に住んでいたことが判明した。
「びっくりしました。こういう意外な繋がりが生まれるんですよね」。
村田さんはこの店を「再会の場所」と呼んでいる。遠く離れた土地で出会った人が、実は大牟田と繋がりがあった。店内で知り合った客同士が交際に発展したこともある。本や雑貨、コーヒーを介して、人と人、人と場所の意外な繋がりが生まれる場所なのだ。
■「裏駅」のまちの案内所として
村田さんは自身の店を「裏観光案内所」「まちの案内所」と呼んでいる。JR大牟田駅側を「表」とするなら、西鉄大牟田駅側は「裏」。表には公式の観光案内所があるが、裏にはないため、店がその役割を自然と担うようになった。
大牟田では近年、福岡の「リノベーションスクール」の影響を受け、リノベーションによるまちづくりが活発化している。元ホテル「アイランド」を月1万円で貸し出し、借り手が自由にリノベーションできるプロジェクトなどが進行中で、全国から見学者が訪れている。
また、唐津、鳥栖、多久、筑後など、直近1〜2年で女性店主の独立系書店が増加している。村田さんは「女性店主だけの組合を作りたい」と語り、新たな連帯の可能性を探っている。
■本屋が担う、もうひとつの役割
「買う本が決まっていたら、ネットで買えばいいじゃないですか」。
村田さんは率直に語る。ネットで本が買える時代に、物理的な本屋の存在意義は何か。彼女の答えは、本を売るだけの場所ではなく、地域の情報が集まり、人と人が繋がる場所としての価値だ。
事務職、営業、図書館司書、複合店バイト。多様なキャリアで得た経験が、今の店に活きている。10年計画で貯めた資金、夫婦で手作りした空間、手書きの新聞、顧客主導の部活動。開業してから少しずつ形を変え、試行錯誤を重ねながら辿り着いたのが、今のtaramuだ。
JR大牟田駅から少し離れた「裏」の場所で、taramuは今日も意外な繋がりを生み出し続けている。
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■『taramu books & cafe』
住所:福岡県大牟田市久保田町1-3-15
電話:0944-85-8321
営業時間:平日7:00〜19:00、土日祝11:30〜17:00
定休日:不定
Instagram:@taramubooksandcafe
https://www.instagram.com/taramubooksandcafe/?hl=ja
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■ taramu books & cafe
住所:福岡県大牟田市久保田町1-3-15
Instagram:@taramubooksandcafe
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