

川崎町に、ひときわ長い歴史を持つ食堂がある。明治元年創業の『向山(むかやま)食堂』。店名も場所も変わらず、150年以上にわたり町の人にご飯を届け続けてきた。昼前になると駐車場はすぐに埋まり、店内は活気に満ちた笑い声と食欲をそそる香りであふれている。その光景に、この店が地域の日常を支えてきた歴史が自然とにじみ出ていた。
そして今、その暖簾を受け継ぐのが六代目・向山皓紀(こうき)さんだ。東京や博多で経験を積み、中国で学びを得て戻ってきた若き料理人は、150年の歴史に新たな一章を重ねようとしている。

■ 定番、チャンポン
取材でまずいただいたのは、昔から人気の「チャンポン」(800円税込)。大きめに切られた野菜や肉がバランスよく盛り込まれ、彩りも食べ応えも十分だ。スープは素材の旨みがじんわりと溶け込み、飲み進めるほどに心地よさが増していく。麺との絡みもよく、口に運ぶごとに「これぞ町の食堂の味」と実感できる一杯だった。「Bセット」(+300円税込)を合わせれば唐揚げとご飯もついて、食べ盛りの人にも人気が高い理由がよくわかった。

■ 本格、エビチリ
そしてもう一皿は「エビチリ」(900円税込)。皓紀さんが腕を振るう自慢の中華だ。プリッとした海老にまとわせたソースは、甘みと辛味のバランスが絶妙で、ご飯との相性も抜群。四川料理店で修行を積んだ経験がここに息づいている。「老舗食堂なのに本格中華が楽しめる」という評判の背景には、この一皿がある。親子丼や肉うどんと並び、今では外せない人気料理のひとつとなっている。

■ 地域に根ざした食材選び
『向山食堂』の味を支えているのは、昔から変わらない仕入れ先と、自分たちの田んぼで育てる米だ。お米は自家田んぼで育てるヒノヒカリ。店の味を支えるだけでなく、販売することもあるという。「自分たちで育てた米を料理に使えるのは特別なこと」と皓紀さん。料理人でありながら農業にも携わるその姿勢に、『向山食堂』ならではの力強さが感じられた。
さらに、玉ねぎやじゃがいも、さつまいも、ピーマンなど一部の野菜も自分たちで育てている。季節ごとに採れる作物が食卓に並ぶことで、町の自然と料理がしっかりと結びついているのだ。卵や醤油も地のもの。昔ながらのつながりを今も大切に守り続けている。毎日食べても飽きのこない「普段のごはん」のおいしさは、こうした丁寧な選択から生まれている。
■ 六代目が見据えるこれから
皓紀さんが店に戻ったのは6年前。東京や博多での経験、中国での留学を経て、父である五代目と並んで鍋を振る毎日を送っている。「忙しいですが、やりがいがあるんです」と語るその表情は明るい。目指しているのは、長い歴史を守るだけでなく、次の時代に合った形で進化させていくことだ。
現在は7〜8名のスタッフで店を回しているが、今後は育成や働き方の改善にも力を入れたいと考えている。「忙しい中でも、みんなが気持ちよく働けるようにしていきたい」。厨房だけでなく、人を育て、環境を整えることもまた六代目の大切な役割になっている。

■200年食堂への歩み
町の人の暮らしに寄り添い続ける『向山食堂』。創業から150年以上、世代を超えて受け継がれてきた味と営みは、すでに町の風景の一部になっている。
六代目・皓紀さんの挑戦が加わり、『向山食堂』は今も進化の途上にある。この先、200年という節目へ向けて、また新しい物語が紡がれていくのだろう。川崎町を訪れたなら、ぜひ一度暖簾をくぐってみてほしい。その一杯の先に、未来へ続く食堂の歴史を共に味わえるはずだ。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
◼️『向山食堂』
住所: 福岡県田川郡川崎町川崎1069-18
電話:0947-73-2137
営業時間:10:00~20:00
定休日:日曜・祝日
駐車場:あり(店舗前と近隣に第二駐車場あり)
Instagram @mukayamasyokudou
https://www.instagram.com/mukayamasyokudou/
GENRE RECOMMEND
同じジャンルのおすすめニュース
AREA RECOMMEND
近いエリアのおすすめニュース