博多豚骨の最高峰「ふくちゃん」「江ちゃん」を体感せよ! 豚骨戦士 福岡のラーメンを斬る! VOL.60〜ふるさとWish 福岡市〜前編~
フィナーレは誰もが認める豚骨の名店を深掘り
福岡県内全60市町村のラーメンを調査し、食べ歩く本連載・ラーメンWishも今回の“福岡市”で最終回。昨年から60週に渡り現地を訪れ啜りまくってきたわけだが、王道店からジモトに根ざした未体験の隠れ家店、さらには意外にもラーメン店が一軒もない町村の存在を発見できたことも、筆者にとって大きな財産となった。さーて、フィナーレを飾る福岡市ではどこを紹介しようか。とても悩ましいがここは原点に立ち返り、筆者がラーメンの世界へどっぷりと浸かるきっかけとなった名店中の名店「ふくちゃんラーメン」、そして、その系譜である“ちゃん系”の一角「江ちゃんラーメン」に焦点を当てたい。
ラーメンライターという職業柄「結局どこのラーメンが一番旨いと?」という問いが頻繁にある。ラーメンは嗜好品につき「最近では」と前置きをして旬な店をプッシュすることも多いが、こと豚骨部門においては胸を張って“ふくちゃん”! 筆者自身とにかく惚れ抜いている。頷く豚骨ファンも多いはずだ。
伝説の職人・榊 順伸の麺愛を息子、娘が継いだ
福岡市早良区・田隈にある行列店「ふくちゃんラーメン」。立ち上る湯気のなか、鍋縁に網を打ち付ける湯切りの心地よい音を奏でる寡黙な男。先代の父から継いだ、名うてのラーメン職人・榊伸一郎さんである。先代時代の弟子「冨ちゃんラーメン」(福岡市・飯倉)、伸一郎さんの姉・伸江さんが出した「江ちゃんラーメン」(福岡市・原)、さらに若手の門下生「なおちゃんラーメン」(福岡県・糸島市)、「しゅうちゃんラーメン」(大分県・中津市)など、どこも絶大な人気を誇る、通称“ちゃん系”の総本山。1975年、福岡市・百道でその歴史が始まる。“ふくちゃん”という屋号は、榊伸一郎さんの伯父にあたる創業者の福吉さんに由来し、伸一郎さんの父・順伸さんと母・美恵子さんが、そのままの屋号で引き継いだのは1980年のこと。他界した順伸さんから継承した伸一郎さんは正確にいうと3代目にあたる。順伸さんは福岡のラーメン界で伝説になっている人である。袖をまくった腕にはビタビタと貼ったサロンパス。タバコを噛みしめながらラーメンを作り、気に入らない客は容赦なく怒鳴り飛ばす。百道時代の先代を知る者は愛着を込めてそう振り返る。そして何よりラーメンが劇的に旨かったと。“孤高のラーメン職人”。まさに、そういう雰囲気をもつ男であった。時は、よかトピア(アジア太平洋博覧会、1989年開催)の会場整備の頃。百道周辺に多くの工事関係者が集まっていたことも追い風となり、ふくちゃんは地域きっての行列店となった。
家族も弟子も麺場には絶対に立たせない
「私は18歳から店を手伝うようになりました。父は“見て盗め”の典型的な職人気質。朝から晩まで側に引っ付いて技を覚えていきましたが、父は倒れるまで私をメインの麺場に立たせてくれることはなかったんです。田隈に移転して27歳の頃でしたかね。初めてスープ釜の前に立ち1人でさばくとなった時、緊張してお客様の顔が見られなかったのを覚えています。厨房の他の場所から見る景色とは全く違ったんですよね。父は普段はとても優しくて穏やかでしたが、厨房に立つと厳格な職人へと変わる。私も実感していますが、お客様に精魂込めた一杯を出すとなれば、自然とスイッチが切り替わるんです」と伸一郎さん。確かに、伸一郎さんは店では口数は多い方ではなく、頑固な職人オーラを醸している。父と同じで客と向き合う麺場には、弟子でも家族であろうと、他の者は決して立たせない。実は、プライベートはとても気さくで、よく笑い、よく呑むw 人懐っこい性格なのである。
継ぎ足しであるがフレッシュ!ちゃん系の真随を体感せよ
ラーメンは、豚の頭骨のみを使用。丸2日炊いた濃度の高い「コク」とその日に仕込む「キレ」、2種のスープをブレンドする継ぎ足し製法である。いわゆる“継ぎ足し”“呼び戻し”スープは、ある程度の“荒々しさ”というのも一つのポイントであるが、ふくちゃんにおいてそれは少なく、“ふくよかな旨味”“甘さ”がより立っているのが特徴。“継ぎ足し”であるが、とても“フレッシュさ”を感じるのが魅力である。「カウンターの前に2つのメイン釜があり、それを“応援”するサブのスープを厨房の後方で常に炊いています。それぞれのブレンド率、生骨を追い骨する量やタイミングが特に重要なんですよ」と伸一郎さんが教えてくれた。
丼からこぼれんばかりに波々と注がれた豊潤スープに、麺も先代時代から変わらない石橋製麺の中太ストレート。名脇役の卓上無料総菜・ニラキムチを分厚いチャーシューに巻いて食べるのも旨い。チャーシューは豚モモ、ロース肉など、バラ以外の多彩な部位を使い、煮汁がラーメンダレにもなる。(後編に続く)