
海のごみをアートに!流れ着いたガラス片で作るランプシェード~ふるさとWish桂川町~

取材に訪れたのは、桂川町在住のランプシェード作家、伊藤哲三さんのアトリ工房。伊藤さんが手掛けているのは、青や緑などたくさんの色が優しく灯るランプシェードです。色や形がちがうさまざまなガラス片を組み合わせた伊藤さんの作品は、まるで宝石のような輝きを放っています。
海のごみをアートにするランプシェード作家

このガラス片こそが伊藤さんの作品の材料であり、“要”でもある「シーグラス」です。「シーグラス」とは、海に捨てられた瓶などのガラス片が長い間、海中を漂いながら波にもまれ、砂に洗われて、形を変えた「海のごみ」。伊藤さんは、このシーグラスを使って、美しいアート作品を作り上げているのです。

「バランスを取りながら模様を作っていくんですが、小さいものを探すのが大変で…」と話す伊藤さん。海の波や砂という「自然が作った形」を活かし、加工を施さずに模様を描くため、すきまを作らず、ピッタリと合わさるものを選び抜くのが大変だといいます。「難しい技術はいりません。必要なのは根気。適当でいいやとか、こんなもんでよかろうという気持ちでは作らないようにしています」と、穏やかな言葉ながら「ものづくり」に懸ける熱いこだわりを聞かせくれました。
唯一無二の作品への徹底したこだわり

息子さんが作っているのを見て始めたというシーグラスのランプシェードづくり。13年前に役場を早期退職したのを機に、本格的にのめり込むようになったといいます。今では作品を飾る場所が欲しくて、裏庭にギャラリーを建てたほど、伊藤さんの制作意欲が尽きることはありません。
「この材料を使おうと思ったら、何度も海岸に見に行って、作品に合うものを探します。見つからないときは、制作に1年かけるときもあります」と伊藤さん。納得のできる作品に仕上げるために、一切の妥協を許さないという姿勢を貫いています。それを一番強く象徴するのが、鮮やかな赤のシーグラスを使ったランプシェード。赤のシーグラスはとても稀少で、なかなか見つけられず、完成までに12年を要したというほど、徹底したこだわりが詰まった作品です。
妻の冨美さんは、「作品の1つ1つ個性があって、灯りが心とホッと癒してくれて…。じっと見ていても飽きないんですよね。そのまま落ちていれば、ゴミだけど作品で生き返ったと思うと、素晴らしいと思います」と伊藤さんが生み出す作品の魅力を語ってくれました。
作品を通して町の魅力を伝えたい!

海から集めた材料で美しい作品を作る伊藤さんは、さぞかし海に特別な思いを抱いているのではと尋ねると意外な言葉が返ってきました。
「確かに海から“宝物”をもらってはいますが、どうしても海を好きにはなれんのですよ。水はしょっぱいし、海に入って上がると体はベタベタになるでしょ?浜を歩けば靴に砂が入るし…」と海のない桂川町で育った伊藤さんは、どうしても海への苦手意識が抜けないといいます。全く異なる思いを投影させているところも伊藤さんが生み出す作品の奥深さかもしれません。
実際、伊藤さんのランプシェードは評判になり、桂川町のいろんなところに展示されています。シーグラスのランプシェードが放つ淡く優しい光を見た人々は、「神秘的な輝きに心を打たれる」、「モノの命をよみがえらせた素晴らしい作品だ」と魅了されているといいます。
本来の役目を終え、海に捨てられた空き瓶やガラスに「新たな息吹」を吹き込むシーグラスのランプシェードづくり。老後の趣味にとはじめたけれど、「いつの間にか大きな目標を与えてくれた」と伊藤さんはいいます。
「桂川町ってどこにあるの?という人が、展示会を見に来て、“ここにあるんだ”と知ってくれたら…。ここに桂川町があるんだぞ、こんな町なんだぞということを、自分なりに発信していけたらいいですね」。
そんな熱い思いがあるからこそ、片道1時間をかけ砂浜に向かい、波打ち際を延々と歩き回って小さなシーグラスを探し出す大変な作業もこなせると、伊藤さんは笑顔で言葉を結びました。
ぜひ桂川町を訪ねた際は、伊藤さんのギャラリーや展示会へ足を運んでみてください。
人間が捨てたガラスのかけらが長い年月、海で漂ったロマンと、作者の故郷への思いを幾重も重ね合わせたシーグラスのランプシェード。世界にたった一つしかない柔らかな光に包まれ、ほっと心を癒してくれるに違いありません。
伊藤哲三さんのアトリエ「うみがらす工房Junty works」
福岡県嘉穂郡桂川町土師3760
※下記の場所でも伊藤さんの作品を展示しています
宮ノ上げんき
福岡県飯塚市長尾1371
TEL 0948-72-0604
時間 11:00~18:30
定休日 月・日曜・祝日
長明寺
福岡県嘉穂郡桂川町大字土師3250
電話: 0948-65-0063
※この記事は2020年の情報です(「シリタカ!」1月15日放送)。内容は変更している可能性があります。事前にご確認ください。