新たなラーメンワールドが広がる絶品創作麺「しる商人」 豚骨戦士 福岡のラーメンを斬る! VOL.44~ふるさとWish 田川市~
飯塚から行橋方面へと向かう国道201号沿い。田川市夏吉に「しる商人」という名の一風変わったラーメン店がある。田川エリアのラーメンも、もちろん豚骨が主流。しかも、有名店「筑豊ラーメン山小屋」が田川郡香春町に本店を構え、田川市内では老舗「飛龍らーめん」(『梅園』が前身)が今なお存在感を放つなど、久留米と同じく、より“豚骨愛”の深いエリアだ。「豚骨じゃなきゃラーメンじゃなかバイ」。そんな往年のラーメンファンも多いなか、「しる商人」は“創作ラーメン”で勝ち抜いてきた。
豚骨一辺倒じゃおもしろくない。筑豊・田川に新たな風を
田川市「しる商人」のメニューは“醤油”“塩”、それぞれのラーメンとつけ麺、そして塩まぜそばが定番である。それに週替わりの創作麺。店の一角に創作麺のレパートリーが貼られているのだが、とにかく数が多い。あさり貝柱、ホルモンピリ辛、とんかつ塩、かに玉とろみ、炊き餃子塩、トムヤムクンなど創作ラーメン、つけ麺、まぜそばの数々。50種近くはあろうか。これでも過去出したなかで特に人気のあったものに絞って掲げているという。「客を飽きさせないため」、そして「他ジャンルの料理も勉強し自分の感性、舌を磨くため」と創作麺に挑戦する店主は多いが、郊外店でここまで熱心なところは珍しいだろう。
店主は滝口昇さん(1967年田川郡川崎町出身)。幼い頃からラーメン好きで地元「梅園」などの豚骨ラーメンに親しんで育ったというが、あふれんばかりのラーメン作りのアイデア、センスの良さはどこで培われたのか。
滝口さんは横浜で8年間サラリーマンを経験。営業職で全国を飛び回り、各地でラーメンを食べ歩いた。啜ったのは数千杯にのぼるという。そして趣味が高じて、脱サラしての転身。ラーメンのキャリアの入口は豚骨であり、自身で最初に開いた横浜『おれんがた』も豚骨専門店だった。
「横浜で店を始めたのは20年近く前で、当時ちゃんとした福岡の豚骨ラーメンを食べさせるところは少なかった。自分が未体験の味をいろいろ食べたい方なので、横浜では珍しかった本格的な豚骨にしました。3年間営んだ後、立ち退きで店を出なきゃいけなくなり、実家の家族の事情も重なって田川に帰ることに。こっちは豚骨があふれているから、今度は醤油や塩で勝負しようと。田川ではあまり馴染みがなかったですから」と滝口さんは話す。
「こんなラーメンもあったと!?」。客の喜ぶ顔が見たい
16年前の開業時は「中華そば しる商人」で始めたが、後に「創作らーめん しる商人」へ。全国で食べ込んできたラーメンを、味の記憶を呼び起こしながらアレンジ。また、他ジャンルのご当地料理の要素をラーメンに組み込んでいくことに夢中になっていった。例えば、あさり貝柱らーめんは横浜中華街で食べたあさりそば。カキ味噌ラーメンは広島で食べた土手鍋がヒントに。名古屋の台湾まぜそばも福岡でいち早く取り入れた。
創作ラーメンに取り組むことは、いつもの仕込みプラスで手間がかかり、食材にロスが出るリスクもある。それを長年続けられているのはひとえに滝口さんのラーメン愛。話してみるとラーメンに対する情熱がビシバシと伝わってくる。
「ラーメンが好きすぎる」。でなければ、絶対に継続することはできない。
「しる商人」の各種ラーメンは、鶏、豚骨、魚介の1本炊き清湯スープがベースになっている。豚骨はボイルした後によく洗い、アク取りも徹底。鶏は肉がついた丸鶏を選び、染み出る黄金の鶏油もコク深さを生む。そして、塩ダレにはモンゴル岩塩を使用。まろみのある塩気、ほんのり甘さのあるスープに仕上げる。
訪れるたびに新たなラーメンワールドを広げてくれる「しる商人」。11:00〜15:00のみと営業時間が短いが、狙って来店してほしい。
【創作らーめん しる商人】
住所:福岡県田川市夏吉1424-5
電話:050-7521-4681
営業時間:11:00〜15:00
休み:火曜
席数:28席
駐車場:7台
上村敏行(かみむらとしゆき)。1976年鹿児島生まれ。2002年よりラーメンライターに。以降年間300杯を食べ歩き「ラーメンWalker」はじめ各媒体での執筆活動、ラーメンイベント監修などを行う。KBC地域リポーター。
※この記事は2019年の情報です。内容は変更している可能性があります。事前にご確認ください。