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薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!

住んでいるとわからない日本の良さがスクリーンに…『不思議の国のシドニ』

2024年12月25日

[薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!]

この作品のさらに詳しい情報はこちら→https://gaga.ne.jp/sidonie/

©2023 10:15! PRODUCTIONS / LUPA FILM / BOX PRODUCTIONS / FILM-IN-EVOLUTION / FOURIER FILMS / MIKINO / LES FILMS DU CAMÉLIA

 監督も主人公の女優もフランス人による日本を舞台にした作品だが、描き方に「それって勘違いなんだけどな~」と感じさせる部分はまったくなかった。それどころか、日本人でさえ気が付いていない日本の魅力が伝わってくる作品だ。

 イザベル・ユペールが演じるフランス人作家・シドニは、デビュー小説の翻訳版を扱う出版社から日本に招かれる。書店でのサイン会やメディア取材など書籍のPRが目的だが、当初彼女は乗り気ではなかった。それは見知らぬ国への長期旅行の不安だけではなく“あるトラウマ”がその作品を書く動機になっていたからだ。

 何とかパリの出発空港には到着しするが、その行動はいささか「?」な部分も…冒頭からここまでの数分間で、彼女が“難儀なキャラ”であることがわかる。それは持って生まれたものではなく、先ほどの“トラウマ”が大きく関わっているようだ。

日本滞在中に身の回りで起こることにシドニの心はかき乱され…。

 日本で彼女を出迎えるのは、伊原剛志が演じる出版社の編集者。その役名は有名な日本の作家というよりも文壇の大御所と一文字違いの“溝口健三”。このあたりからもフランス人のエリーズ・ジラール監督(脚本も)が日本文化に詳しいことがうかがえる。

 登場から30秒で彼も“難儀なキャラ”とわかるが、本を売って儲けたいのではなく、作家としてのシドニを尊敬しているからこそマネージャーを買って出たようだ。

 日本国内でPR行脚を始めた二人は、京都、奈良、直島(なおしま/香川県)などを訪れる。このまま旅先で出会う人々との触れ合いによって彼女が過去のトラウマから解放されていくのか…と思ったら大間違い。彼女の前に“ある人物”が現れ、物語は予測不能の展開をみせる。

 戸惑うシドニに対して溝口が無造作に放つ言葉「この国、ニッポンではあり得ることですよ…」によって、この作品が現実とファンタジーとの垣根を越えて展開することが示唆される。

情報番組で目にする観光名所でも、スクリーン上ではまったく違うものに見えてきて…。

 特に目を引くのが移動に使われるタクシーや自動車内のシーン。後部座席の二人の後方に去っていく景色はCG合成だとすぐわかる。昭和の『進め!電波少年』でよく見た“グリーンスクリーン”のようなアナログぶりで、明らかにわざとだ。

 しかし、これだけVFX全盛の時代にやられるとイヤでも印象に残る。なるほど、車内での会話は二人の人間関係の変化や発展を暗示する重要なシーンだったと後からわかった。

 他にも大都会上空のドローンを使った俯瞰映像や意味ありげに長く使われる街なかの様子など、日本なのにそうではないような錯覚に陥る。実際はフランス・ドイツ・スイス・日本の合作だが、ヨーロッパ映画のテイストが随所に感じられ、普段は気にも留めない風情が違ったものに感じられた。

 驚いたのは「奈良の大仏」の描写だ。主人公2人のショットから移動していくカメラの動きは、明らかに日本人の感覚ではない。これを見た外国の方は特別な気持ちを持つだろう。

 それは「聞いてはいたが、日本文化は予想以上の輝きを放っている」というものだが、もちろん“観光PR”を狙っているわけではない。日本を“正しい意味での不思議な国”ととらえたことで、結果的に大きい効果を生んでいるのだ。

日本国内の有名な観光地が登場するが、それらはいつもとは違う輝きを放ち…。

 本作はシドニと溝口とのラブ・ストーリーだけれど、一方では“過去のトラウマ”の呪縛を解き、前向きに生きる人間のドラマでもある。監督はおそらく後者に重きを置いたと感じられた。

 シドニの身の上に起こったとされる“喪失”とか“孤独”にまつわる経験は、いささかドラマチックなものだったが、だれしも多かれ少なかれそんな経験をしたことがあるか、現在進行中ということもあるはずだ。

 その点で、ミニシアター系の作品に興味を持つ映画ファンにぜひオススメしたい「知的な作品」と言えるだろう。

 
 ※この作品は12月27日(金)から 福岡市のKBCシネマで、また来年1月10日(金)からはイオンシネマ大野城などで全国ロードショー公開されます。

 

 

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