【打刃物職人❷】「日本の鍛冶」 向 俊征さん
2026年03月22日

佐賀県唐津市加部島。
ここで最高級の水本焼和包丁を製作する向俊征さんは、「包丁は美術品ではない。
道具として使われてこそ」の信念で日々モノづくりに励んでいます。
華美な装飾は不要とし、「玄海正国(げんかいまさくに)」の銘が打たれた向刃物製作所の包丁は控えめな意匠です。

鋼のみを使用し、800度まで熱した包丁を水で急冷する「奇跡の包丁 水本焼」は油で冷やす一般的な本焼と違い、温度や水から出すタイミングなどすべてが熟練の技で、その日の気候にも左右されるため、失敗がついてまわります。
厳しい条件下で鍛えらえた水本焼和包丁は一般的な包丁よりもはるかに切れ味が鋭く、食材の組織を傷つけず切断できるため、食感が良く、日にちがたっても食材が悪くなりにくいそうです。
その硬さと手入れの難しさから、職人歴10年以上の料理人にしか販売をしておらず、和食に携わる料理人の憧れの品だそうです。

「片刃包丁は日本の文化で和食の基本」と語る俊征さん。近年は洋食の隆盛、材料となる鋼材の不足もあり、和包丁の生産数は年々落ち込んでいます。
この包丁を生かしてくれる料理人の手に渡り、自分の包丁が厨房で活躍すること、それが俊征さんの最大の望みです。
そして、父から受け継いだ和包丁を通して、和食という日本の文化を支えていきたいと語っています。

俊征さんが未来に残したい風景は唐津市加部島の田島神社。
佐賀県で最も古いと言われる田島神社には、昔から海上の安全を願う人々が訪れています。
本格的に包丁製作に取り組む前の数年間、加部島で素潜り漁をしていた頃、この神社によく参拝していたそうで、今でも鳥居をくぐると気持ちが引き締まるそうです。