ゆっくりと時が流れる『キッサネコノジ』と3つの手仕事の店が集う、海沿いの小さなクリエイティブスペース『ねこのじterasu』で見つける、自分らしい時間(北九州市若松区)【まち歩き】

若戸大橋のたもと、穏やかな海を臨む若松南海岸通り。レトロ建築が立ち並ぶこの通りに、時代の流れとは逆行するように、ゆっくりと時間が流れる場所がある。『ねこのじterasu』──それは、カフェと3つの手仕事の店が集う、小さなクリエイティブスペースだ。

JR若松駅から徒歩10分。若戸渡船を使えば、渡船場からわずか2分の距離にあるこの建物は、築65年の歴史を重ねてきた。「傷んだところも味」と語る店主たちが大切にしているのは、古い建物が持つ独特の居心地の良さと、そこに流れる特別な時間だ。

◾️『キッサネコノジ』──自由な時間が流れる癒し空間

入り口に掲げられた「おひとり 又は おふたりでご利用ください」という案内が、この店の姿勢を端的に表している。店主の大庭さんが目指したのは、「疲れている大人がゆっくりくつろげるカフェ」。2007年のオープンから19年、その想いは一貫して変わらない。
「過度な接客はしないんです。お客さんの好きに使ってほしい。一人で来たら一人でゆっくり、二人で来たら二人でゆっくりお話ししてください」。
大庭さんが大切にしているのは、お客さんそれぞれの自由な時間。時間制限もなく、回転率も気にしない。本を読む人、書き物をする人、ただぼーっと海を眺める人。それぞれが思い思いの時間を過ごす。「一度座ってしまったら立てない」「帰りたくない」──そんな声が後を絶たないのも頷ける。

■365日違う表情を見せる、海の景色

大きな窓から望む海は、このカフェの最大の魅力だ。
「本当に365日景色が違うんですよ。曇りの日はブラインドを全開にできるから見渡せるし、日が差すとちょっとブラインド下ろすけど、それもまた気分がいい。雨の日もしっとりしてさらにのんびりできます」。
夕日は見えない角度だが、夕方の柔らかい光に包まれる時間帯が特に人気だという。カウンター席からは、行き交う船を眺めながら、時の流れを忘れることができる。
そしてこの場所は、営業が終わったあと夜になると、若戸大橋がライトアップされ、昼間とはまた違った幻想的な景色を楽しむことができるのも醍醐味だ。

■変わらないメニュー、変わらない味

「変わらないこと」をモットーにしているという大庭さん。メニューは19年間、基本的にほとんど変わっていない。
看板メニュー「アオイロソーダ」(税込650円)は、鮮やかな青色が目を引くクリームソーダ。最近特に人気が高まっているこの一品は、海の景色とのコントラストも美しい。
もう一つの人気メニューが、八幡の『パンの食卓 一の粉』さんから仕入れた厚切りパンを使ったトースト。「メープルバニラトースト」(税込650円)は、バニラアイスが添えられた贅沢な一品で、常連客のお気に入りだ。
「いつ来ても同じ、っていうのが大事だと思うんです。東京とかに行った学生さんが帰省した時に必ず寄ってくれる。実家に帰ってきたら、うちに寄るっていう方が多いんですよ」。
それは単なるカフェではなく、心の拠り所としての役割を果たしている証だろう。

■手しごと雑貨 ニコ屋──手に取った人が「ニコッ」とする、心温まる雑貨たち

1階のもう一つの店舗が、自然素材を使ったハンドメイド雑貨の『ニコ屋』だ。
ドライフラワーやプリザーブドフラワーを使ったリース、編み物など、すべてが手作り。店名の由来を尋ねると、作家さんは笑顔で答えてくれた。
「手に取ってくれた人が思わずニコッとするようなものを作りたいなって。それで『ニコ屋』なんです」。
店内には季節に合わせた作品が並ぶ。取材時はクリスマスシーズンに向けた準備の真っ最中で、色とりどりのリースやオーナメントが並んでいた。クリスマスが終われば、次はお正月のしめ縄作りが始まる。
時折開催されるワークショップでは、ドライフラワーを使ったリースなど、様々なクラフトに挑戦できる。「一人でいろんなことをやってます」と笑う作家さんの、ものづくりへの情熱が伝わってくる空間だ。

■写真と雑貨のお店 虹のいろいろ──趣味から始まった、写真への純粋な想い

2階に上がると、写真と雑貨の店『虹のいろいろ』がある。「写真好きが集まれる空間を作りたい」というコンセプトから北九州を拠点に活動するフォトグラファーの蒼(あお)さんがこのお店を開いた。
現在は人物撮影をメインに活動しており、七五三などの晴れの日の撮影や、イベント撮影の依頼が多いという。店内には、撮影した写真をまとめたフォトブックや、ポストカード、そしてカメラモチーフのアクセサリーも並ぶ。
フィルムカメラへの愛も深く、趣味で中判の二眼レフカメラも愛用している。デジタルとフィルム、それぞれの良さを活かしながら、この場所で創作活動を続けている。

■手編み豆靴と手仕事アクセサリーの店 『Tsumugi +』──2センチの世界に込められた、驚異の技術

2階のもう一つの店舗、『Tsumugi +』では、信じられないほど小さな手編みのミニチュア作品に出会える。
「十何年作ってるんですけど、だんだんちっちゃくなって、今2センチまでサイズが小さくなりました」。
作家さんが手にする小さな靴は、本当に2センチしかない。それなのに、靴ひもや飾りまで細かく再現されている。中敷には本革を使い、すべて手縫いで仕上げられている。
「ちっちゃいものが好きなので。最初は4.5センチから始まったんですけど、だんだんだんだんちっちゃくなって」。
手編みから糸の処理などの仕上げまで、一つ一つに相当な手間暇をかけて制作している。
出産祝いや足のお守りとして贈る人も多く、最近では「推しカラーで作ってほしい」というオーダーも増えているという。小さな作品に込められた、大きな想いと技術が光る作品たちだ。

■毎年集めたくなる、クリスマスコレクション

特に人気なのが、クリスマスシーズン限定のミニチュア作品。サンタクロースやトナカイ、クリスマスツリーなど、どれも手のひらに乗る小ささながら、その存在感は抜群だ。
「毎年コレクションしに来る方もいらっしゃるんです。家にある子たちを連れてきて、『この隣に置くやつを買いに来ました』って」。
一つとして同じものはない。その年の糸を使って作るため、色や飾りが少しずつ異なる。だからこそ、毎年新しい出会いがある。それでも価格は950円から。「お小遣いで買えるように」という優しさも込められている。

■『ねこのじterasu』が紡ぐ、つながりの物語

「基本はみんな、この場所が好きなんです」。
大庭さんの言葉が印象的だった。
10年前、カフェ一店舗だけで始まったこの場所は、店を気に入った作家たちとの出会いによって、現在のシェアショップのような形態になった。最初は1階だけだったが、今では2階も含めた全館で、4つの個性的な店が共存している。
「同志」という表現で語られる店舗同士の関係性。それぞれが独立しながらも、この建物と場所への愛着でつながっている。
クリエイターが「アイディアが湧く」と通う場所。東京に行った若者が「帰ってくる場所」として立ち寄る場所。一人で静かに本を読みたい人が、心から安らげる場所。
『ねこのじterasu』は、様々な人にとっての「サードプレイス」として、19年間変わらずにそこに在り続けている。

■時代に逆行する、贅沢な時間

情報過多の時代、すべてがスピードを求められる現代において、「放置系」「変わらない」「のんびり」というキーワードは、むしろ新鮮で魅力的に響く。
「せっかくここに来たのに、ずっと携帯見てる人もいますけど、もったいないですよね」。
大庭さんの言葉に、はっとさせられる。海を眺め、手仕事の温もりに触れ、自分と向き合う時間。それは今、最も贅沢な時間の使い方なのかもしれない。
築65年の建物に流れる、特別な時間。若松の海が見せる、毎日違う表情。4つの店が織りなす、手仕事の温もり。
『ねこのじterasu』は、時が止まったような、でも確かに生きている場所だ。

------------------------------------------------------------------

■『キッサネコノジ』(『ねこのじterasu』内)
住所:福岡県北九州市若松区本町1-11-14
営業時間:12:00〜17:00(LO16:00 )
定休日:日曜・不定(詳しくはInstagramをご確認ください)
Instagram:@nekonoji
https://www.instagram.com/nekonoji/
------------------------------------------------------------------

■ キッサネコノジ

住所:福岡県北九州市若松区本町1-11-14
Instagram@nekonoji

この記事をシェア

  • Facebook
  • LINE
  • X
ジモタイムズを見るなら「アサデス。アプリ」
まちを花と緑でいっぱいに。インスタグラム
New 毎日パン日和のインスタグラムが新登場
Pick Oasisのインスタグラムがリニューアル
ジモタイムズを見るなら「アサデス。アプリ」
まちを花と緑でいっぱいに。インスタグラム
New 毎日パン日和のインスタグラムが新登場
Pick Oasisのインスタグラムがリニューアル