芸術の秋!映画を観なくても行きたくなる小さな映画館!まちと人とカルチャーの「出会いの場」。 『シアター・シエマ』が18年間大切にしてきたこと(佐賀・佐賀市)【まち歩き】
秋は芸術を楽しむのに最適な季節だ。美術館や劇場に足を運ぶ人も増えるこの時期、佐賀市の中心部では一つのミニシアターが独自の文化を育み続けている。
佐賀市の中心部、セントラルプラザの3階。エレベーターを降りると、そこには県内唯一のミニシアター『シアター・シエマ』がある。2007年の開館から18年、この映画館は単なる映画鑑賞の場を超えた、地域のコミュニティハブとして独自の進化を遂げてきた。芸術の秋に改めて訪れたこの場所で、運営会社「69'nersFILM」の代表・芳賀英行さんに、映画館という枠組みを超えた挑戦と哲学について話を聞いた。
■映画館ではなく「出会いの場」を作りたかった
「映画館がやりたかったわけじゃないんです」。
芳賀さんの言葉は意外なものだった。2004年、福岡を拠点に移動上映から活動を始めた当時の原点は、映画そのものではなく「場づくり」だったという。
「当時の自主映画の上映会って、どこか閉鎖的でオタク的なイメージがあった。もっと開かれた形で、映画に興味がない人も楽しめるような場を作りたかった」。
その思いは、上映スタイルにも反映されている。初期は自主映画を中心に上映していたが、面白い作品がコンスタントに確保できないという課題に直面。そこで方向転換したのが、商業映画でありながら埋もれている作品、劇場公開されなかった作品を掘り起こすスタイルだ。
「カフェ、うなぎ屋、車屋…いろんな業種のオーナーと協力して、映画に食事や音楽を組み合わせた『映画プラスアルファ』のイベントを各地でやりました。映画館がない場所を映画館に変える、そんな試行錯誤を重ねてきたんです」。
■映画館の概念を壊す―シアター・シエマの誕生
2007年、これまでの活動の集大成として佐賀市に『シアター・シエマ』を開館。しかしそれは、一般的な映画館のイメージとは異なるものだった。
「逆の発想で、映画館の中でライブをやったり、映画館の概念を壊していきたかった。ここで出会った人と何かを生み出す、それがシエマのアイデンティティです」。
その言葉通り、シアター・シエマでは農業映画祭とマルシェ、洋服の受注会など、映画と直接関係ないイベントも開催している。芳賀さんが目指すのは「映画を見なくても来れる場所」だ。
館内には3スクリーンのうち1つを転用したカフェスペースがあり、コーヒーや軽食を楽しみながら映画について語り合える。月に一度、有志が集まって映画の感想を語り合う「月一シネマ」のような自発的なコミュニティも生まれている。
「子供から年配の方までが楽しめる、僕らの考える現代版『公民館』。それが目指している場所なんです」。
■1200万円の募金が証明した存在価値
2014年、映画業界のデジタル化の波がシアター・シエマにも押し寄せた。デジタル上映機材への切り替えには1000万円が必要。存続の危機だった。
しかし、常連客らが「シエデジ会」を結成し募金活動を開始すると、佐賀県内100か所に募金箱が設置され、チャリティコンサートも開催された。最終的に集まった金額は目標を超える1236万円。
「『なくなったら困る』と思ってくれる人がいることを、数字で確認できた。本当に必要とされているんだと実感しました」。
この出来事は、 『シアター・シエマ』が単なる映画館ではなく、地域にとってかけがえのない「場所」になっていることを証明した。
■メジャーもマイナーもない―多様性への挑戦
作品選定について、芳賀さんは明確な哲学を持っている。
「映画という土俵の上では、メジャーもマイナーもない。多額の宣伝費をかけた作品だけが良いものとされる風潮に疑問があるんです」。
『シアター・シエマ』では、大手シネコンでは上映されない作品を中心に、18年間で約1700本を上映してきた。知られていない作品にも面白いものがあることを伝え、食わず嫌いをなくす。それが芳賀さんの使命だ。
印象的なイベントとして、毎年12月15日の開館記念日前後に開催される覆面上映会「桃源郷」がある。何が上映されるか分からない状態で、オールナイトで4作品ほどを鑑賞する。過去には石井輝男監督の「恐怖奇形人間」を上映し、観客を唖然とさせたこともあったという。
「多様な作品に出会える場を提供すること。それが僕らの役割です」。
■今後もスクリーンの光が人々を照らす
配信サービスの普及、コロナ禍の影響。映画館を取り巻く環境は厳しい。芳賀さんも「映画業界は斜陽産業」と認識している。
それでも、前を向く。
「単に映画を上映する場所ではなく、人と人、あるいはカルチャーとの出会いの場。その出会いが最終的に映画へと繋がっていく。楽しんでやるしかないんです」。
『シアター・シエマ』は、映画館という形をとりながら、実は映画を超えた何かを提供している。それは、人が集まり、出会い、何かを生み出す「場」としての価値だ。
開館から18年。佐賀の中心部で静かに灯り続けるスクリーンの光は、これからも人々を照らし続けるだろう。芸術の秋、映画という芸術を通じて人が出会い、語り合う。『シアター・シエマ』は、そんな豊かな時間を今日も生み出している。
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■『シアター・シエマ』
住所:佐賀県佐賀市松原2-14-16 セントラルプラザ3階
電話:0952-27-5116
営業時間:8:50〜最終回開始時間まで
定休日:元日・大晦日
ランチ営業:水・土曜、日祝日、不定
Instagram@theater_ciema
https://www.instagram.com/theater_ciema/
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■ シアター・シエマ
住所:佐賀県佐賀市松原2-14-16 セントラルプラザ3階
Instagram@theater_ciema
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