

福岡県八女市黒木町の山あいに、ひときわ大きな音を立てる水車があります。ここは天然素材の線香をつくる、全国でも数少ない工房の一つ「馬場水車場」。この地で営みを続けてきたのは、馬場 猛(たけし)さん・千恵子(ちえこ)さん夫妻。香料・着色料・添加物・防腐剤を一切使用せず、八女の山から集めた杉やタブの葉を、水車の力で粉に挽き、棒状に成形。その後、約48時間かけて乾燥させます。これらの工程は、すべて手作業で行われています。

水車は、星野川から矢部川に注ぐ横山川の水流を動力に、直径5.5m、幅1.2mの大きさで稼働。かつて八女市には、40軒以上の水車場がありましたが、現在も現役で稼働しているのは日本でわずか2軒。そんな貴重な場で、線香が作られる過程を知ってもらうために、線香作り体験も行われています。その体験について、「線香について知ってもらうと、お客様に喜んでもらえる。僕も刺激があるし、皆さん若いのでエネルギーを吸収できる」と猛さんはにこやかに語ってくれました。

粉づくり一筋50年以上。猛さんは父の跡を継ぎ、原料としての粉を長年製造・出荷してきました。しかしある時、杉の線香が市場から消えたことをきっかけに、お客さんから「もう一度この香りを嗅ぎたい」という言葉が多く寄せられるように。60歳を迎えた頃、線香作りを決意。八女の線香メーカーを弟子入りを願い出るも、全て断られたため独学で挑戦。「水と植物の油分が喧嘩して、なかなかうまく固まらなくて。2年かかってできたのが今の線香」と振り返ります。その姿に心を動かされた商売人達が”馬場水車場を応援する会”を立ち上げ、水車を八女市の観光資源として、協力して線香作りの継続を支えてきました。

一方の千恵子さんは、若くして嫁ぎ、50年以上にわたって仕事を一緒に支えてきました。「嫁に来たときは、こんなに長く続くなんて思ってなかったです。でも気づけば、もう後期高齢者。お互い言いたいことは遠慮なく言い合ってますよ」と笑顔で語ります。

八女市と共に刷新した、杉や水車をモチーフにしたデザインは、海外のお客様にも好評。「もうできる範囲でしかやらない。どっちかが倒れたらもうダメですよ。お客さんが使ってくれるうちは、長続きするように自分達の体力に応じて作っています」と千恵子さんは淡々とした口調のなかに揺るぎない覚悟を滲ませます。添加物を使わないからこその難しさ、水の管理の繊細さがありつつも、「線香作りは奥が深くて面白い」と猛さんは真っ直ぐな目で語ってくれました。水と森と、人の手で紡がれてきたこの場所には、時代が変わっても変わらぬ音と香りが生きています。馬場水車場の線香は、仏事だけでなく癒しの香りとして今も、国内外の多くの人々に愛され続けています。
■馬場水車場
住所:福岡県八女市上陽町上横山1241-2
電話:0943-54-3586
営業時間:9:00〜16:00
定休日 土・日曜
※営業時間・定休日・記載の内容などは変更している場合がございます。事前にご確認ください。
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