

■フクオカ・パラスター・プロジェクトの現場から
福岡県が進める「フクオカ・パラスター・プロジェクト(FーSTAR)」。障がいのある人の中から、優れた素質や潜在的な能力を有する人材を発掘し、未来のパラアスリートへと育てていく取り組みだ。
真夏の午前11時、久留米陸上競技場を訪れた。容赦なく照りつける日差しの下、選手たちは黙々とトラックを駆け抜ける。汗を浮かべながらも表情は崩さず、前をまっすぐに見据える姿には、強い意志と集中力が漂っていた。仲間を励ます声やコーチの檄が重なり、会場全体に熱が広がっていく。

■ 星を見つけ、未来を育てる――FーSTARという希望
FーSTARは「知る・ふれる」「見つける」「育てる」という三つの段階で構成されている。まずは体験会や相談会でパラスポーツの魅力を知ってもらい、次に測定会で走力や投力など基礎体力を確認。そこから優れた素質を有する人材を発掘する。そして「育てる」段階では、定期練習会や専門コーチによる指導を通じ、才能を大きく伸ばしていく。
福岡県は平成16年度から全国に先駆けてタレント発掘事業を行い、オリンピアンを輩出してきた。その実績を基盤に、令和4年度からパラスポーツへと広げたのがこのプロジェクトだ。対象競技は陸上、バドミントン、水泳、車いすバスケットボールなど7種目。FーSTARは「“フクオカ”から世界へ」という道筋を描いている。
真夏のトラックで走り続ける選手たちの姿は、FーSTARの理念を体現しているようだった。今回取材した陸上競技の練習会から、2人の本プロジェクト受講生に話を伺った。

■「必死に走り続けたい」――山本龍神さん
短距離に挑戦する山本龍神(りゅうが)さんは、両親に勧められてFーSTARに参加した。陸上競技は未経験だったが、幼い頃から走ることが得意で好きだったため、この道を選んだ。
「チームの雰囲気はとても良いし、仲間との関係もいいんです」と語る。練習も楽しく、普段は仕事が終わった後に毎日公園でトレーニングを続けているという。
種目は100mと400m。現在の自己ベストは100mで13秒台だ。目標は100mで10秒台を出すこと、そしてその先にあるパラリンピックの舞台。
「これからもずっと必死にトレーニングし続けて、目指すのはパラリンピック」――その言葉に、彼の真剣な思いが凝縮されていた。

■「できない」を「できる」に――林杏頼さんと母・領子さん
800mのダウン症女子日本記録(4分18秒)を持つ林杏頼(あんらい)さん。今年でFーSTARへの参加は3年目を迎える。参加のきっかけは募集ポスター。以前はダンスやスイミングをしていたが、陸上はこの活動から始めた。
普段は自宅の周りを20周走ったり、近くの池の周りを走ったりと自主練習を重ねている。FーSTARの練習会にも積極的に参加し、「楽しい。新しい友達やコーチとの出会いがある」と話す。その出会いは大きなモチベーションにつながっているという。
母の領子さんは、娘の成長を喜びながらこう語る。「生まれた当初は希望を失っていたけれど、運動ができるようになったことに驚きと喜びを感じています」
FーSTARのコミュニティは、同じダウン症の仲間と切磋琢磨できる場。女子のダウン症選手が少ないことから「もっとライバルが増えてほしい」との願いも口にする。
杏頼さんは、学校から帰ると自発的に練習を始め、食事や体調管理にも意識を向けるようになった。試合前にはマスクを着用し、風邪をひかないように工夫する姿もある。領子さんは「障がいがあるから『できない』のではなく、やり続ければ『できる』に変わる」と語り、その思いを大切に娘を見守っている。

■ 若者の未来に星を灯す
FーSTARは選手の競技力を高めるだけでなく、挑戦する姿を通じて社会に希望を広げている。障がいの有無に関わらず、誰もが夢を描き挑戦できる舞台をつくること。それこそが福岡県の描く未来だ。
久留米の夏空の下で見た真剣な表情は、きっとこれから世界に届く光になる。FーSTARという星の名に込められた想いは、福岡から羽ばたくパラアスリートたちの未来を、力強く導いていくに違いない。
◼️福岡県『フクオカ・パラスター・プロジェクト(FーSTAR)』
本事業へのお問い合わせ
【福岡県人づくり・県民生活部スポーツ局スポーツ振興課アスリート支援係】
住所:福岡市博多区東公園7番7号(福岡県庁南棟5階西側)
電話番号:092-643-3991
メールアドレス:sposhinko@pref.fukuoka.lg.jp
公式ページ https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/f-star.html
GENRE RECOMMEND
同じジャンルのおすすめニュース
AREA RECOMMEND
近いエリアのおすすめニュース