「玩具の系譜」(福岡県柳川市)
2025年02月23日
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江戸時代から柳川地方に伝わる「柳川さげもん」。
着物や布団の端切れなどで作った人形がつるされていて、その姿、形から「つるし飾り」とも言われている。
柳川では昔から女の子が生まれると「健康と裕福な暮らし」などを願って、初節句には「柳川さげもん」を贈る習慣がある。
今ではおひな様と一緒に飾る家が多いが、戦後すぐの経済が厳しかった時代は、おひな様を購入することができなかったので、家族親戚近所の人が集まって、初節句を迎える女の子に贈っていたそうだ。
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柳川さげもんを作りはじめて40年になる古賀民子さん。
結婚を機に柳川に住んで60年近くになる。
ご自身の娘を出産した時には、育児に追われて柳川さげもんを作る時間がなかったそうだが、めいが生まれたのを機に作りはじめ、今ではベテランさげもん職人となった。
特に好きな作業が、柳川まりを作ることで、作業中は楽しくて仕方がないそうだ。縁起の良いものを糸で模様にして表現する柳川まり。
その模様の数は配色を変えると無数にあるそうだが、無数にあるということが、80歳になる古賀さんの人生を彩っているように思えた。
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だが古賀さんが今、最も懸念していることは、後継者が減ってきているということだ。
一つの「柳川さげもん」を作るのに、1年近くかかることもあるという。
だが長い期間、さげもんを学ぶために専念することは、今の時代、難しくなってきている。
今ここで伝統をつなぐことができなければ、柳川さげもん、特に柳川まりはその歴史をつなぐことが難しくなってしまう可能性がある。
「あと3年は作り続けたい」と話す古賀さん。
それは、後継者が現れるまでがんばりたいというメッセージだと感じた。
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そんな古賀さんが未来に残したい風景は「柳川のお堀」だ。
静かな場所が好きだと話す古賀さん。
夕方になると観光客も少なくなり、心地良い川の音と風が、気持ちを落ち着かせてくれる。
舟と舟が軽くぶつかって、ギィッと小さな音を立てる。
風が吹く日は、川の表情が少しけわしくなる。
そんな風に季節を感じながら、これからも古賀さんは「柳川さげもん」を作っていく。