「風情を刻む」(福岡県八女市)
2025年02月16日
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良質な石が採取できることから、昔から石工業が盛んにおこなわれてきた八女市長野地区。
この地で作られる石灯籠は八女の伝統工芸品となった。
そんな長野地区で五代にわたり、石灯籠を作り続けているのが「橋山石灯籠製作所」。
橋山裕司さんは大学卒業後、父のもとで修業を重ね、家業を継いだ。
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阿蘇山の火山灰が堆積してできた「凝灰岩」が取れる八女の石は、軟質で、彫刻しやすく、吸水性に優れているため、苔のつきが早く、温度変化に強いのが特徴だ。
自身の採石場を持つ橋山石灯籠製作所は、原石を掘り出すところから作業が始まる。
何をどう作るか、そのための原石の見極めが重要であり、石の目・傷を気にしながら慎重に掘り出す。
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八女石灯籠独自の「自然木型」の土台となる「柱」は、石が割れないよう微妙な力加減で、いかに本物の幹に見えるようにバランス、質感、動、静を手作業で再現している。
庭を持たない家や洋風建築が増えた昨今、八女の石灯籠は下火となっているのが現状だ。
しかし、インターネットの普及やインバウンドの影響で、石灯籠という日本文化が海外で人気となり、海外からの需要が徐々に増えてきており、あまり先が見えなかったこの業界に、一筋の光が見えてきた。
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そんな橋山さんが未来に残したい風景は「星野川にかかる宮ケ原橋」。
大正時代に長野地区の石で作られた四連アーチ型の眼鏡橋だ。
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2012年7月、矢部川・星野川などが氾濫し、八女市、星野村、黒木町など近隣に甚大な被害をもたらした2012年九州北部豪雨。
橋は欄干こそ流されたものの、激流と土石流に耐え抜いた。
その痛々しくも力強い姿を見て、同じ石を扱う者として、当時の石工職人たちの技術力と長野地区の石に、誇りと尊敬の念を抱くという。