ラブコメですが、単に笑いを取るだけではなくて…。 映画『顔だけじゃ好きになりません』
2025年03月07日
[薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!]
この作品の詳しい情報はコチラ→https://kaosuki.asmik-ace.co.jp

今回の試写会への参加は“冒険”だった。自分は今年の誕生日で70歳を迎えるから、本作のターゲットとしては“問題外の外の外”。本来の観客はZ世代が中心だろうから「最近の若者にウケている映画はどんな感じかな?」という社会勉強のつもりで鑑賞したわけだ。
ところが、スクリーン上で連発されるギャグには笑えたし、登場人物の“喜怒哀楽”に共感できる部分も多々あった。
さらに、ラブコメディではあるものの、SNS世界と現実社会とのギャップについて考えさせられた点で社会派の表情を持つとも言えるだろう。

原作は漫画家・安斎かりんで、現在も「花とゆめ(白泉社)」に連載中。
主人公の高校生・宇郷奏人(うごう・かなと)は、留年して2年生をやり直している上に、さらに出席日数が足らず退学寸前の崖っぷち状態。しかし、彼は強力な武器を持っていた。それは、偶然撮影された写真がSNSで拡散されると大バズリし「本人不在のインフルエンサー」と呼ばれるほど学校一、いや日本一レベルで顔が良い青髪男子だったのだ。
一方、県内一の不人気校だった母校の関係者は、彼にミッションを与える。それは「学校公式アカウントのフォロワー10万人を達成し人気アップに貢献したら学業のことは無罪放免」というもの。
ところが、奏人は“DM”の意味すら知らないSNS音痴というかなり強引な設定で、いわゆる“中の人”として後輩の1年生、知見才南(ちけん・さな)が登場する。“整った顔のイケメン好き”という彼女のキャラは、好きを通り越してかなり突き抜けている印象。
そこに才南と同じクラスの同級生で、長い前髪で顔を隠したミステリアス男子の土井垣凌 (どいがき・りょう)が割って入り“二人のイケメンから奪い合いになる普通女子のドタバタ劇”という「花とゆめ」ならではのラブコメの王道が展開される。

だだ、ラブコメだけど単に笑いを取るだけではなく構成もしっかりしている。それは、4人の主要登場人物の演技によるところが大きい。
筆頭は才南を演じた久間田琳加だ。“振れ幅が大きいイケメン好き”という設定は、ともすると大げさな演技になりそうだが、あたかも原作漫画から飛び出したかのような説得力があった。現在テレビ朝日系列で放送中の『家政夫のミタゾノ 第7シーズン(3月11日が最終回)』での新人家政婦役からも“ただ者ではない感”が漂い、24歳という若さですでに演技巧者といった風情。
そして奏人を演じた宮世琉弥の“見かけはドライだが、内面に熱さと悩みを抱えている”という複雑なキャラも違和感がなかった。今年の前半だけで劇場映画が4本、それもメジャー作品に起用されたのも納得だ。
“ミステリアス男子”などというどこにも演技のお手本がない土井垣役の中島颯太は“FANTASTICS from EXILE TRIBE”のメンバーだから本業はダンサー&ミュージシャン。エンタメ全般に勘が鋭い人物なのだろう。
才南の親友・能原柚里(のうはら・ゆずり)役の米倉れいあは、まさに“こういう女の子いるよね~”と思わせる演技…というよりも(監督の指導もあるだろうけど)もはや素でやっている印象。彼女も5人組ガールズグループ“HUNNY BEE”のメンバーで、女優と並行して音楽活動もするアクターズアイドルだから器用な人材は大勢いるわけだ。

“ラブコメだけど単に笑いを取るだけではない”と書いたが、それは登場人物が独り言のように放つセリフが気になったからだ。
たとえば「顔が良すぎて、他人からはなんでもできる人間と思われるが、実際はそうでないとわかった時の落胆は半端ない」なんて話が出てくる。自分は、目に見える形での評価が重視されすぎて、その人間の本質が軽んじられていることなのかもと感じた。
そして「好きなことを好きと正直に言えるのはうらやましい」だ。つまり、自分の本心を言ってしまうと“空気が読めないヤツ”ってことになるから常に我慢を強いられ、まわりに気を使っている日常が浮かび上がる。
現代社会のSNSは単なるツールではなく、あたかも“空気”のように生きるために必要不可欠なものだけど、ある場面では“よどんだ空気”を感じる人もいるのでは…と考えさせられるのだった。
※この作品は3月7日(金)から T・ジョイ博多、TOHOシネマズららぽーと福岡 、ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13、ユナイテッド・シネマ福岡ももち ほかで全国ロードショー公開されます。
