魂を込めた1日80杯限定!「煮干しのビリー」人生に寄り添う一杯のラーメンに込めた想い(福岡・宇美町)【まち歩き】

宇美八幡宮のほど近く、路地裏にひっそりと佇む「煮干しのビリー」。
1日70~80杯限定の煮干しラーメンで連日行列を作るこの店の店主・松岡さんに、独立までの道のりと熱い想いを聞いた。

■衝撃を受けた名店の系譜を受け継ぐ店名

「煮干しのビリー」という印象的な店名には、深い想いが込められている。
「僕がDJやバンドをやってた時の名前がビリーで、煮干しラーメンだから『煮干し』。そして大野城市の白木原にあった『煮干しのマクロ』という、僕が衝撃を受けたラーメン店の名前の系譜を辿っています」。
「かっこよく言えば、意志を受け継いでいる」と松岡さんは語る。単なる店名ではなく、自身のルーツへの敬意が込められているのだ。

■飯塚から宇美町へ、お客様への責任を胸に

独立前は飯塚で間借り営業をしていた松岡さん。「間借り営業を始めて1ヶ月後にはもう20人以上の行列ができて、毎週毎週パンク状態でした」。
需要の高まりを受けて本業だった居酒屋をやめ、独立を決意。飯塚の店舗では手狭になったため、現在の宇美町に移転した。
「順風満帆すぎて怖いですね」と松岡さんは苦笑いを浮かべるが、その根底にはお客様に対する責任感と、ちゃんとしたものを提供したいという強い想いがある。

■なぜ煮干しラーメンなのか

松岡さんがラーメン屋を目指すようになったのには、家族の影響があった。
「父がラーメン屋をしていて、その後居酒屋になったんです。自分もいつか飲食、ラーメンを作ると考えていました」。
実際に居酒屋を経営していた松岡さんだったが、ある一杯のラーメンとの出会いがすべてを変えた。
「大野城市白木原の『煮干しのマクロ』を食べてから衝撃を受けて、他のラーメンが物足りなくなったんです」。
現在は閉店している「煮干しのマクロ」だが、松岡さんはその味に魅了され、オーナーのもとに、たまに訪れてはコツを教えてもらっていた。居酒屋の経営を手放してまでラーメン屋として独立した背景には、この運命的な出会いがあったのだ。

■ちゃんとしたものを提供したい、純粋な想い

松岡さんのラーメンへの想いは、一般的な飲食店経営とは一線を画している。
「お金持ちになりたいとか起業家になりたいとかではなく、僕のラーメンを食べたお客様が『今日仕事で上司に怒られたけど、ちょっとやる気が出た』『明日も頑張ろう』と思えるような、人生の糧になってくれたらいいな」
この言葉からは、お客様にちゃんとしたものを提供することで、その人の感情に寄り添いたいという純粋な想いが伝わってくる。
松岡さんは、ミュージシャンの甲本ヒロトさんの「夢っていうのは目的なんじゃないか。『バンドがやりたい』と思った瞬間に叶っている」という言葉に深く影響を受けたという。
「『ラーメン屋がやりたい』『お客様に喜んでもらいたい』—それが僕の夢で、今まさにそれを叶えている。お金持ちになりたいなら他の方法もあるけれど、僕はラーメンで人を喜ばせたいんです」。
技術的な完成度だけでなく、一杯のラーメンに込められる想いこそが、多くの人を惹きつける理由なのだろう。

■漁師への敬意から生まれる極上の煮干しスープ

「煮干しが苦手な方でも食べやすい」と評判の秘密について尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「何も工夫してないです。それは全部漁師さんの煮干しのおかげ」。
使用するのは山口県瀬戸内海の周防大島にある浮島で水揚げされる「カタクチイワシ」の煮干し。知人のラーメン店からの紹介で出会ったこの煮干しに「衝撃を受けた」という。
実際に現地を訪れた松岡さんは「命がけです、あの人たちは。だから僕も命懸けでラーメンを作ります」と漁師への敬意を込めて語る。素材への深いリスペクトが、味に反映されているのだと感じた瞬間だった。

■淡麗と濃厚、2つのスープの哲学

代表的なメニューは2種類の「煮干しらぁ麺」。
「淡麗煮干しらぁ麺」は煮干し、羅臼昆布、水のみのシンプルな構成。
一方、「濃厚煮干しらぁ麺」は動物系出汁に煮干しを大量使用し、淡麗の倍以上の煮干しを投入している。
スープ作りで最も重要にしているのは「バランス」。「煮干しが多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ」と松岡さんは強調する。
使用する醤油は「再仕込み醤油」。大豆、水、醤油。塩の代わりに醤油で作るため色は濃いが、塩分は変わらずより深いコクが生まれる。

目指して来てくれるお客を大切にしたい想いから、濃厚ラーメンは複数回訪れたリピーターのみに提供しているという。

今回いただいたのは淡麗煮干しらぁ麺 醤油(税込900円)。煮干し特有の苦味が全くなく、清涼感を感じさせるほど透明感のある口当たり。そして鼻へダイレクトに吹き抜ける小麦の香り。普段豚骨しか食べない筆者にとっては明らかに新鮮な味わいだった。

■1日80杯が魂を込められる限界

「それ以上作ると集中力が持たないし、最後の方のお客さんに提供するラーメンがどうしても完成度が低くなってしまう」。
過去に100杯以上作った経験から、一杯一杯に魂を込められる限界が80杯だと悟った松岡さん。この姿勢が、遠方からも客を呼ぶ理由の一つだろう。

■ラーメン以外の細部へのこだわり

松岡さんの「抜かりない」おもてなしは、ラーメンの域を超えている。
椅子やカウンター、机の高さにもこだわり、器は醤油と豚骨で作りを変えている。コップもプラスチックではなく金属製を使用し、お茶は焙じ茶と麦茶をブレンドした特製のものを提供。
「ラーメンの値段が他のお店よりも高いので、ラーメンのクオリティはもちろん、ラーメン以外のところでもお客様に満足してもらいたい」。
一つひとつは小さなことかもしれないが、こうした細部への配慮が積み重なって、特別な体験を生み出している。お客様が「また来たい」と思う理由は、ラーメンの味だけではないのだ。

■宇美八幡宮の空気感に惹かれて

宇美町を選んだ理由について「宇美八幡宮がすぐそこで、空気感がいい。県道沿いじゃなく路地裏でひっそりやりたかった」と語る。
客層は地元1~2割、残りは遠方から目指して来る40代以上がメイン。神奈川、兵庫、東京からの来店も珍しくない。

■ミシュラン獲得への挑戦、その真意

「ミシュラン取りたいです」。
この言葉に込められた想いは、単なる名誉欲ではない。
「僕が偉くなりたい、すごくなりたいとかじゃなくて、今までのファンの方たちへの恩返し。製麺所の方とか生産者の方に星をあげたいんです」
関わる全ての人への感謝を込めた挑戦は、松岡さんの人間性を物語っている。

■人生に寄り添うラーメンの真価

取材中、松岡さんご夫妻が「松岡さん、会いにきたよ」とおっしゃってくれるお客さまがいることを嬉しそうに語る場面があった。単なる店主と客を超えた、人と人とのつながりがそこにはある。
お金ではなく味と体験を重視し、関わる人々への感謝を忘れない姿勢。それこそが「人生に寄り添うラーメン」を生み出す源なのだろう。
宇美町の路地裏で、今日も松岡さんは一杯一杯に魂を込め続けている。


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■『煮干しのビリー』
住所: 福岡県糟屋郡宇美町宇美4丁目7-32 2F
営業時間: 火・金・土・日曜 9:00~14:00 / 月曜 11:00〜14:00(※スープがなくなり次第終了)
定休日: 水・木曜、不定あり

Instagram: @ramen.boys6960
https://www.instagram.com/ramen.boys6960/

URL:https://www.instagram.com/ramen.boys6960/

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